異世界で家庭菜園やってみた
(無理はするまい……)

ウリエルが笑い続けた結果、悠里はそう自分を戒めた。

機織り工場に着いてすぐ、悠里は彼を「ウリエルさん」と呼び、ウリエルはがっくり肩を落とすことになる。

「慣れの問題だと思うけど?」

「いいえ。やっぱり、わたしには無理なんです!」

「俺は気にしないよ。少々尻上がりでも」

「わたしが気にするんです!ウリエルさんだって、笑ってたじゃないですか」

「あれは……頑張ったんだなあと思ってさ。可愛く思ったから、笑ってたんだろ?」

ウリエルがさり気なく自分の事を「可愛い」と言う度に、悠里の心臓が跳ね上がった。

言われ慣れていない「可愛い」は、本当に心臓に悪い。

それに、自分に変な自惚れを与えてしまいそうだった。

(社交辞令、社交辞令)

自分に言い聞かせながら機織り工場の入口に向かうと、木造の体育館のような建物の中から、カッタンカッタンというリズミカルな音が聞こえてきた。

入口に立つとすぐに、初老の女性がやって来た。

袖をたくし上げ、ドレス丈も短い、動き易い服装をしていた。

「ウリエルさま。お待ちしておりました」

「ああ、ネルさん。急なことなのに、見学させてくれてありがとう」

「嫌ですよ。改まって。ウリエルさまの頼みなら、断れるわけありませんでしょ。おや。そちらのお嬢さんが?」

「うん。ユーリだ。ユーリ。こちらは、ここの責任者のネルさん」

「は、はじめまして。悠里です」

悠里は慌ててお辞儀した。

「ほほ。可愛らしいお嬢さんですこと。まあ、コウメさまのお若い頃にそっくりでいらっしゃる」

「そ、そうですか?」

「ええ。黒髪に、黒い瞳で。小柄な所もねえ」

「それは、日本人だからですね」

何となく内心残念に思ったが、仕方ない。

外国人から見たら日本人はみんな同じに見えるのは、どうやら異世界でも有効のようだ。

「ネルさんは、おばあさまの弟子だったんだ」

「ええ。私がコウメさまに直接ご指導頂いた、最後の一人ですよ。もうねえ。本当に随分昔の事になってしまいましたよ。さあさあ。時間がもったいないでしょう。さっそく、ご案内致しましょうね」

「は、はい」



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