異世界で家庭菜園やってみた
戻って来た悠里が前に立った。

何か挨拶をと思ったが、人前で喋る機会のない悠里の口からは、なかなか言葉が出て来ない。

「代わりに話そうか?」

見かねて、ついつい言ってしまったウリエルだったが、悠里はぶんぶんとかぶりを振ると、「大丈夫です。このくらい出来なきゃ、前に進めませんから」と言うと大きく息を吸い込んだ。

「皆さん、初めまして。わたし、ユーリと言います。えっと、野菜を作ろうっていう求人を見て、今日来られたのだと思いますけど、まず、報酬は期待しないで下さい」

言った途端、「ええ~」と言う不満の声が、口々から零れた。

「あの、まずは野菜を育てることを覚えて頂きたくて……。野菜を育てられるようになったら、ご自分で売ったりして頂ければと……」

まず、この時点で三人が帰った。

「それから、野菜作りは一朝一夕にはいかないので、ここで一年は一緒に畑を作ってもらいたいなあと思うんです」

また一人。

「その後、希望者がいたら、地方に行って、野菜作りの先生になってもらったり。とにかく、この国で、野菜が自給自足出来るようになったらいいなあと思ってます」

「お嬢ちゃん。何でそんな風に思ったんだ?」

「王都と地方に差があり過ぎるんです。王都には野菜がいっぱいあるのに、地方にはまったくない。野菜は栄養がいっぱいあります。子供たちに、たくさん食べさせてあげてほしいのに、地方の子供たちは野菜を食べられない。これって、変ですよね?輸入には限界があります。やっぱり、自分たちの食べる物は、自分たちで作らなきゃ。わたしたちは、皆さんの雇用主ではありません。一緒に、このディントで野菜を育てる楽しみを分かち合ってほしいんです」

「報酬がないんじゃ、やってらんないなあ」

そう言って、おじさんが立ち上がった。

それに続いて、恰幅のいい若者も立ち上がる。

「俺たちはその日暮らしなんだ。金が貰えねえなら、用はねえよ」

そう言って、引き留める間もなく帰ってしまった。

残るは四人。

この人たちまで帰ってしまったら、また一からやり直し。

悠里は生唾を飲みこんで、口を開こうとした。

「わたしゃ、やってみるよ」

エプロンを着けたおばさんが声を上げた。

「えっ、本当ですか?」

「ああ、本当だともさ。確かに、子供たちに野菜は必要さ。それを自分の手で育てられるなら、それに越したことはないからねえ。今まで、その方法を知らなかったからやらなかっただけだからさ。教えてくれるなら、わたしゃ、やるよ」

「あ、ありがとうございます!」

ぺこりと頭を下げた悠里に、また新たな声が掛かる。

「わしは、この通りの老体じゃが、何か出来ることがあるなら、やるがのう」

杖を突いたご老人だった。

「も、もちろんです!おじいさんに畑仕事はぴったりです。是非、いっしょにやりましょう!」

残るは、二人。

少女と青年だった。

「お二人は?」

「別に~、やってもいいけどー。暇だし~」

髪の先を弄びながら、口を尖らせる少女。

「サラ。もっと行儀よくしろよ。すいません。妹が」

「はあ、いえ」

そ、そうか。

残った二人は、兄妹なんだ。

随分毛色の異なる兄と妹だった。

妹は明らかにギャル系。けれど、兄は縁(ふち)の太い眼鏡を掛けた、如何にも優等生と言った趣の青年だった。

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