異世界で家庭菜園やってみた
「僕たちは、あなたが今言った、地方から来たんです。山脈の麓にある村から」

「え?どこで、ちらしを?」

「実は」

「そんなのどうでもいいじゃあん。さっさと話し進めてよ~」

今度はどこから出したのか、爪とぎで長く伸ばした爪を研いでいる。

「三食昼寝付きって、ほんとなの?」

下から睨むように見上げられ、悠里は内心怯みながらも頷く。

「あ、あの。こちらのコウメさまが、もし必要ならそうしろと仰って下さって」

「ええ。希望者には、お部屋も用意しましょうね。あなたたちは地方から来たのなら、宿住まいなのでしょう?」

「……貴族さまってのは、ほんとに、金も暇も余ってんだね」

「サラ!何てこと言うんだ!?両親を亡くした俺たちには、有り難い話だろ」

「ご両親を亡くされたんですか?」

「あ……ええ。一週間くらい前に、不慮の事故で。それで、王都の市場に行けば、何か仕事が見つかるかもと」

青年は眼鏡を直しながら、顔を曇らせた。

「なら、まとまった報酬がある仕事の方がいいんじゃないか?」

「ウリエルさん……」

「俺たちがこれからしようと思ってるのは、成功するかも分からない事なんだ。あとで話が違うと言われても、困るんだが?」

青年の眼鏡がきらりと光を反射した。

「野菜作りを覚えさせて、地方に広めたいと言ったのは、あなた方でしょう?」

「……」

「それなら、地方出身者の僕たちはいい人材だし、妹に三食食べさせて貰えるなら、文句なんて言いませんよ」

「あの。もしお金を稼ぐ必要があるなら、そんな四六時中野菜に引っ付いていなくてもいいんだし、働きながら、ここに通ってもらっても全然かまわないんですよ」

悠里のこの言葉が決定打となり、青年アルバートと妹サラは当面仕事を探しつつ、コウメさまの邸に滞在しながら、野菜作りをしていくという事で話がまとまった。

エプロンおばさんのジョーさんは家族があるからと通いに、杖を突いたご老人サムさんは、「自宅に帰っても、一人だから寂しいのう」ということで住み込みとなった。

「じゃあ、わたしゃ、そろそろ子供たちが学校から帰る時間だから、失礼しますよ」

「はい、また明日。よろしくお願いします!」

ジョーが帰って行くと、サムがすすっとコウメさまに近付いた。

「憧れのコウメさまに、こんな間近にお会い出来るなんぞ、いい冥土の土産が出来ましたわい」

「まあ。ほほ。あちらにお茶の支度が出来ていますの。ご一緒にいかが?」

「おー。このサムめ。一生のうちで、これ程幸せなことはありませんでしたぞ」

「ほほほ。お上手ねえ」

(まさか、サムさん。最初からコウメさま狙いだったんじゃ)と思わないでもなかったが、コウメさまにとっても良い茶飲み友達が出来て良かったのかもしれなかった。
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