異世界で家庭菜園やってみた
「あの、僕たちは……」

「あたし、遊んでくるから~」

「おい、サラ!」

「兄さん、付いて来ないでよ。昨日知り合った男と会うんだから」

「お、お前。何言ってるんだ?そんなの、死んだ母さんが許す訳ないじゃないか」

「死んだ人間が、許すも許さないもないでしょう?ほんと、兄さんて、母さんそっくりで、面白くな~い」

「サラ!」

言い合いをしながら庭を出て行くサラとアルバート。

「大丈夫かなあ」

「兄妹だし、大丈夫だろ。それより、種蒔きのことだけど」

ウリエルが言い掛けた時、「キャー」と言うサラの悲鳴が邸中に響き渡った。

「え?どうしたの」

慌てて走って行くと、停まった馬車の前に、サラが倒れていて、アルバートが助け起こしているところだった。

「ちょっ。大丈夫ですか!?」

「ああ。咄嗟に避けたから」

そう言いながらも、アルバートは心配そうに眉をひそめている。

「何なのよ。この馬車。すごい勢いで、人の前に走って来てさ!」

馬車を睨み付けるサラが、すこぶる元気なことにほっとして、悠里も目の前に停まる馬車に目をやった。

かちゃりと馬車の扉が開いた。

さらさらという衣擦れの音と共に、長い黒髪が覗いた。

陽光に光り輝く、艶やかな黒髪。

「あ……」

馬車から降り立った人に、悠里は思わず立ち上がった。

不敵な笑みを浮かべている彼女。

一瞬悠里を見たかと思うと、サラの方に視線を向けた。

「貴様、当たり屋か?」

冷たく言い放たれた言葉に、その場にいた誰もが固まった。

「ふん。金を稼ぎたいなら、ちゃんと働け。手に職を持たんと、のたれ死ぬぞ」

「あ、あんた、謝りもせず、何言ってんのよ~!」

「貴様如きに、謝る言葉はない。下衆が」

「げ、げす?」

言いたいことを言って、もうサラには興味を失ったのか、ぷいっと視線を外すと、彼女は、マリュエル・フォッセは悠里に顔を向けた。

「久しいな。ユーリ」

「マリー……」

微妙な空気を感じている筈なのに、それをものともせず、我が道を行くマリュエル。さすがである。

「今までにない速さで仕上げて来たぞ。ユーリの為に」

「マリー。会いたかった!!」

流石は空気を読めない悠里。

サラの怒りなどそっちのけで、マリュエルに飛び付いた。

「あ、あたしは、下衆って言われたのに……。謝りもしないで、何なのよ~!」

サラの叫びに、ただただ男たちは頷いていた。

< 118 / 152 >

この作品をシェア

pagetop