異世界で家庭菜園やってみた
「とにかく、中で落ち着こうか」
ウリエルの鶴の一声で、その場にいたものは皆、邸の応接室に落ち着いた。
マリュエルは悠里の隣をしっかり陣取り、他のことは目に入らないと言った様子。
随分慕われたと思うが、いったい自分のどこが彼女の気に入ったのか、悠里には分からなかった。
結局サラは昨日市場で出会った男の元に行くのを諦め、応接室の隅で一人ぶーたれている。
「サラさん。ごめんなさい」
悠里もマリュエルに会えた喜びから我に返ると、サラの事を放っていたことを思い出し、それ以後謝り続けているが、サラは許してくれそうにない。
「サラ。もういいだろ?」
兄であるアルバートも取りなすが、梨の礫だ。
「ねえ。マリー。あなたからも何か言ってあげたら……」
「私が?何故だ」
「だ、だって」
マリュエルの大きな瞳に睨まれては、悠里など蛇に睨まれた蛙。
項垂れるしかなかった。
「マリュエル・フォッセ」
ウリエルの低い声に、部屋の空気がピリリと緊張した。
「なんだ?」
しかしマリュエルも負けてはいない。
その形の良い唇に似つかわしくない、ドスの効いた声で、ウリエルを威嚇する。
悠里なら、すぐさま縮み上がりそうな声だったが、さすがに年長のウリエルには通じなかったらしい。
「君が謝るべきだ。どんな時でも、人と馬車なら、馬車の方に過失があるのだからね。それとも、まだ意地を張り続けるなら、リュール王国の商工会議所に連絡してもいいんだよ」
マリュエルの眉がピクリと反応する。
「ロンドベル子爵。この私を脅すつもりか?」
「君が、会頭に弱いらしいというのは、当の本人から聞いている」
「ヤンめ……」
舌打ちしそうな勢いで振り向くと、サラに向かって言い放った。
「私が悪かった」
けれど、その顔は物凄く不満そうだ。
「サラさんも、もう許してやってくれないか?」
ウリエルは優しい声音に変えて、そう言った。
「……別に、許してやってもいいけどさ。そいつがいるなら、あたし、野菜作んの、やだからね」
「サラ!」
兄が咎めるのを無視して、サラはツーンと首を逸らした。
「ムカつくもん」
「ほう。いい度胸じゃないか。ガキ」
「マ、マリー。抑えて!」
「いいや。ユーリ。こういう言葉を知らないガキは、一度締めなきゃ分からないんだ」
「だ、だめだよ。サラちゃんは、わたしと一緒に野菜作るんだから!」
「ユーリは、私とガキと、どっちが大事だ!」
「な、何言って……。マリーはわたしの大事な友達だよ。この世界で、初めての女の子の友達だもん。大事に決まってるじゃない。でもね。サラちゃんとも、これから野菜作りを通して、いろいろ楽しいこと分かち合いたいなって思ってるんだ。優劣じゃないよ。二人とも、わたしがこの世界で出会った、大事な人だもの」
マリュエルの目を真っ直ぐに見ながら言うと、彼女の顔が見る間に真っ赤になって行く。
「ふ、ふん。だったら、仲良く畑、耕しやがれ!!ほら、鍬だよ」
どこに隠し持っていたのか、マリュエルがポンと、鍬を放って寄越した。
「私手ずから作った、最高級品だ。大切に使え」
手にした柄は、しっくりと手に馴染み、まるで長年使っていたかのような持ちやすさ。
そして、鍬の先には丁度良い角度が付けられていて、これなら完璧な畝(うね)が作れそう。
「ああん。最高〜!会いたかった〜」
思わず、スリスリ頬ずりしてしまった悠里。
そんな悠里の奇異な仕草に、マリュエルは満足そうに頷き、先程までの怒りはどこへ行ったのか、サラはぽかんと口を開けている。
アルバートは見なかったことにしたらしく、眼鏡の汚れを拭き取っていた。
そしてウリエルは……。
スリスリされている鍬に、嫉妬していたとか、いなかったとか……。
「明日はさっそく、お仕事だからねえ。鍬」
微妙な空気の応接室に、悠里の間抜けな声だけが響いていた。
ウリエルの鶴の一声で、その場にいたものは皆、邸の応接室に落ち着いた。
マリュエルは悠里の隣をしっかり陣取り、他のことは目に入らないと言った様子。
随分慕われたと思うが、いったい自分のどこが彼女の気に入ったのか、悠里には分からなかった。
結局サラは昨日市場で出会った男の元に行くのを諦め、応接室の隅で一人ぶーたれている。
「サラさん。ごめんなさい」
悠里もマリュエルに会えた喜びから我に返ると、サラの事を放っていたことを思い出し、それ以後謝り続けているが、サラは許してくれそうにない。
「サラ。もういいだろ?」
兄であるアルバートも取りなすが、梨の礫だ。
「ねえ。マリー。あなたからも何か言ってあげたら……」
「私が?何故だ」
「だ、だって」
マリュエルの大きな瞳に睨まれては、悠里など蛇に睨まれた蛙。
項垂れるしかなかった。
「マリュエル・フォッセ」
ウリエルの低い声に、部屋の空気がピリリと緊張した。
「なんだ?」
しかしマリュエルも負けてはいない。
その形の良い唇に似つかわしくない、ドスの効いた声で、ウリエルを威嚇する。
悠里なら、すぐさま縮み上がりそうな声だったが、さすがに年長のウリエルには通じなかったらしい。
「君が謝るべきだ。どんな時でも、人と馬車なら、馬車の方に過失があるのだからね。それとも、まだ意地を張り続けるなら、リュール王国の商工会議所に連絡してもいいんだよ」
マリュエルの眉がピクリと反応する。
「ロンドベル子爵。この私を脅すつもりか?」
「君が、会頭に弱いらしいというのは、当の本人から聞いている」
「ヤンめ……」
舌打ちしそうな勢いで振り向くと、サラに向かって言い放った。
「私が悪かった」
けれど、その顔は物凄く不満そうだ。
「サラさんも、もう許してやってくれないか?」
ウリエルは優しい声音に変えて、そう言った。
「……別に、許してやってもいいけどさ。そいつがいるなら、あたし、野菜作んの、やだからね」
「サラ!」
兄が咎めるのを無視して、サラはツーンと首を逸らした。
「ムカつくもん」
「ほう。いい度胸じゃないか。ガキ」
「マ、マリー。抑えて!」
「いいや。ユーリ。こういう言葉を知らないガキは、一度締めなきゃ分からないんだ」
「だ、だめだよ。サラちゃんは、わたしと一緒に野菜作るんだから!」
「ユーリは、私とガキと、どっちが大事だ!」
「な、何言って……。マリーはわたしの大事な友達だよ。この世界で、初めての女の子の友達だもん。大事に決まってるじゃない。でもね。サラちゃんとも、これから野菜作りを通して、いろいろ楽しいこと分かち合いたいなって思ってるんだ。優劣じゃないよ。二人とも、わたしがこの世界で出会った、大事な人だもの」
マリュエルの目を真っ直ぐに見ながら言うと、彼女の顔が見る間に真っ赤になって行く。
「ふ、ふん。だったら、仲良く畑、耕しやがれ!!ほら、鍬だよ」
どこに隠し持っていたのか、マリュエルがポンと、鍬を放って寄越した。
「私手ずから作った、最高級品だ。大切に使え」
手にした柄は、しっくりと手に馴染み、まるで長年使っていたかのような持ちやすさ。
そして、鍬の先には丁度良い角度が付けられていて、これなら完璧な畝(うね)が作れそう。
「ああん。最高〜!会いたかった〜」
思わず、スリスリ頬ずりしてしまった悠里。
そんな悠里の奇異な仕草に、マリュエルは満足そうに頷き、先程までの怒りはどこへ行ったのか、サラはぽかんと口を開けている。
アルバートは見なかったことにしたらしく、眼鏡の汚れを拭き取っていた。
そしてウリエルは……。
スリスリされている鍬に、嫉妬していたとか、いなかったとか……。
「明日はさっそく、お仕事だからねえ。鍬」
微妙な空気の応接室に、悠里の間抜けな声だけが響いていた。