異世界で家庭菜園やってみた
夕食後、悠里はマリュエルと二人、ソファに座って談笑していた。
マリュエルが持って来てくれた鍬は、全部で50。
依頼があれば、まだまだ作ってくれるという。
けれど、それだけあれば、しばらくは事足りそうだ。
「ありがとう。マリー」
「いや、かまわん」
悠里の礼に、心持ち顔を赤らめるマリュエル。
悠里はくすりと笑った。
「なんだ?」
「ん?ううん。……最初会った時は、こんなに仲良くなれるとは思ってなかったなあと思って」
「……私も、ユーリと同じだからだ」
「え?」
「この風貌。この世界の人間と言うよりは、お前の方に近いだろう?」
「それは……マリーのご先祖が日本人だったからでしょ」
「そうだけど。でも、先祖がこの世界に召喚されたのは、もう数百年も昔の事だ。日本では内乱が起きていた頃だろう?」
「あ……」
「そのご先祖は筆まめだったらしくてな。膨大な量の日記を残している。刀鍛冶で、この世界に来てから、鉄を求めてリュールに至ったと。そう記してあった」
「刀鍛冶……」
「刀は砂鉄から作られる玉鋼から作る物らしい。だが、リュールで採れるのは主に鉄鉱石で、砂鉄は僅かだ。だから、ご先祖は刀を諦め、量産出来る鉄製品の製造方法を産み出した。それが、今の鉄工場の基礎になったんだ。私は何とかご先祖の刀鍛冶の技術をものにしたいと、ご先祖の日記を繰り返し読み、ついにリュールの砂鉄でも刀剣を作り出す技術を得た。それが、今や帝国にも輸出されているという訳だ」
「……」
「だが私は……迫害を受けた」
「え?」
「この世界の人間との混血を繰り返しているうちに、私の家系には、こちらの世界の人間の特徴を持った者しか生まれなくなっていた。私は先祖がえりだと言われている。唯一のな」
「うん」
「人と違うというのは罪になるらしい。家族からも、学校の友人からも、私は異質な物として扱われた。ただ一つ、認められたのは、鍛冶の才能だけだ。だが、それも努力の結果だというのを、家族は知らない。私は家を飛び出し、ただ一人の理解者だった、今の工房の親方の所に飛び込んだんだ。そして、今に至る」
悠里は言葉なく、マリュエルを見つめることしか出来なかった。
彼女の、どこか人を拒絶するような態度や、悠里が召喚者と知った時に軟化した理由が分かったような気がした。
「同情を引きたくて話したのではない。ただ、ユーリには知ってほしかったから。それだけだ」
「うん。ありがと」
マリュエルは花が綻ぶように笑った。
「ユーリの寂しさは、私なら分かってやれると思ってるんだ」
「あ……」
「だから、この世界で一人だなんて思わないで。私は明日リュールに戻らなくてはならないけど、心は常にユーリとある。そう思っていてほしい」
「うん。わたしも、マリーのこと、いつも思ってるよ。マリーの作ってくれた鍬と一緒に」
「ふふ」
マリュエルが可笑しそうに微笑んだのにつられて、悠里も笑った。
目尻に滲んだ涙を隠すように。
二人は笑い続けた……。
マリュエルが持って来てくれた鍬は、全部で50。
依頼があれば、まだまだ作ってくれるという。
けれど、それだけあれば、しばらくは事足りそうだ。
「ありがとう。マリー」
「いや、かまわん」
悠里の礼に、心持ち顔を赤らめるマリュエル。
悠里はくすりと笑った。
「なんだ?」
「ん?ううん。……最初会った時は、こんなに仲良くなれるとは思ってなかったなあと思って」
「……私も、ユーリと同じだからだ」
「え?」
「この風貌。この世界の人間と言うよりは、お前の方に近いだろう?」
「それは……マリーのご先祖が日本人だったからでしょ」
「そうだけど。でも、先祖がこの世界に召喚されたのは、もう数百年も昔の事だ。日本では内乱が起きていた頃だろう?」
「あ……」
「そのご先祖は筆まめだったらしくてな。膨大な量の日記を残している。刀鍛冶で、この世界に来てから、鉄を求めてリュールに至ったと。そう記してあった」
「刀鍛冶……」
「刀は砂鉄から作られる玉鋼から作る物らしい。だが、リュールで採れるのは主に鉄鉱石で、砂鉄は僅かだ。だから、ご先祖は刀を諦め、量産出来る鉄製品の製造方法を産み出した。それが、今の鉄工場の基礎になったんだ。私は何とかご先祖の刀鍛冶の技術をものにしたいと、ご先祖の日記を繰り返し読み、ついにリュールの砂鉄でも刀剣を作り出す技術を得た。それが、今や帝国にも輸出されているという訳だ」
「……」
「だが私は……迫害を受けた」
「え?」
「この世界の人間との混血を繰り返しているうちに、私の家系には、こちらの世界の人間の特徴を持った者しか生まれなくなっていた。私は先祖がえりだと言われている。唯一のな」
「うん」
「人と違うというのは罪になるらしい。家族からも、学校の友人からも、私は異質な物として扱われた。ただ一つ、認められたのは、鍛冶の才能だけだ。だが、それも努力の結果だというのを、家族は知らない。私は家を飛び出し、ただ一人の理解者だった、今の工房の親方の所に飛び込んだんだ。そして、今に至る」
悠里は言葉なく、マリュエルを見つめることしか出来なかった。
彼女の、どこか人を拒絶するような態度や、悠里が召喚者と知った時に軟化した理由が分かったような気がした。
「同情を引きたくて話したのではない。ただ、ユーリには知ってほしかったから。それだけだ」
「うん。ありがと」
マリュエルは花が綻ぶように笑った。
「ユーリの寂しさは、私なら分かってやれると思ってるんだ」
「あ……」
「だから、この世界で一人だなんて思わないで。私は明日リュールに戻らなくてはならないけど、心は常にユーリとある。そう思っていてほしい」
「うん。わたしも、マリーのこと、いつも思ってるよ。マリーの作ってくれた鍬と一緒に」
「ふふ」
マリュエルが可笑しそうに微笑んだのにつられて、悠里も笑った。
目尻に滲んだ涙を隠すように。
二人は笑い続けた……。