異世界で家庭菜園やってみた
次の日も快晴。

畑仕事にはうってつけの日和だった。

皆それぞれ動き易い服装で集まったのは、コウメさまの菜園ではなく、王都の郊外にあるロンドベル子爵領。

元は大公領であった土地を、ウリエルが子爵位を受ける際に分与された場所だった。

そこへなら、コウメさまの邸から馬車ですぐだった。

そうして、集った精鋭(・・)たち。

「あれ、一人足りないんじゃないかい?」

徒歩でここまで来てくれた、ジョーさんが言った。

「あ、サムさん。今日はコウメさまの菜園を手伝うって言って、ここには……」

「なんだい、それは。まあ、いいか。おじいさんには水やり、頑張ってもらおう」

「そうですね」

皆で笑いあうと、悠里は鍬を配り始めた。

「まずは、これを使って、土を耕していきます。あまり力み過ぎず、振り上げると疲れちゃうから、地面からあまり離し過ぎないようにするといいですよ」

自分でも持つと、悠里は実演し始めた。

祖母から教えて貰った鍬の使い方。

それを人に教える日が来るなんて、思ってもみなかった。

「畝を作る時には、こう鍬の先に土を乗っけて、土を寄せて行くって感じですかね。この時も、力入れずに、ささっと、ささっと」

「どうして、畝を作るんだい?」

「あ、それは、野菜により水分を取らせて上げるためと、根を張りやすくしてあげるためです」

「へえ、なるほどねえ」

説明している間に、アルバートはすでに土を耕し始めているし、サラは髪を弄びながら、あらぬ方を見ている。

本当に性格の違う兄妹だったが、ここまで来ているのを見ると、妹の方も一応参加するつもりはあるのだろうか。

「あ、じゃあ、ジョーさんとサラちゃんも耕してみましょうか」

「はいよ。任せておくれ」

返事もいいが、さすがの胆力で、ジョーさんはすごい勢いで土を耕して行く。

「す、すごい……」

これは期待できると胸を弾ませながらサラを見ると、彼女はまだ地面に座り、今度は土をいじっていた。

「サラちゃん?」

「あたしの事は気にしなくていいからさ~、あんたもやればいいじゃん」

「でも、出来れば、皆一緒に」

「あんた、うざいって言われるでしょ?」

「え?」

「いるんだよねえ。自分はいい子ですって、必死でアピールする奴って」

サラの言葉が胸に突き刺さり、そして、記憶が呼び覚まされた。

教室で漏れ聞こえてきた、同じような陰口。

それに自分は何度傷付き、心を閉ざしたのか。

きゅっと唇を噛むと、悠里は身を翻して走った。

サラから離れた場所まで来ると、鍬を土に突き刺した。

言い返すことの出来ない自分への苛立ちを、そこにぶつけるように。

一心不乱に鍬を振るう。

嫌な気持ちを追い出すように。

それが、思春期からの悠里のやり方だった。

そんな悠里を、サラは冷ややかな目で見ていた。





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