異世界で家庭菜園やってみた
ある程度土地が耕されると、昼近くになっていた。

朝から外務部に出勤していたウリエルが、ピクニックバスケットを二つ抱えてやって来た。

「そろそろ休もう。随分進んだね」

「ええ。けっこう、いい汗掻きましたよ」

黙々と働いていたアルバートが座り込んだ。

「お茶を淹れて飲むといい」

「はい。ありがとうございます」

「それじゃ、わたしがしてあげよう」

ジョーさんが手際よくお茶を淹れ、お弁当を並べて行くのを、アルバートも手伝う。

「妹は?」

「あいつはやる気なしですから、放っといてください。いつの間にか、どっかに行ってしまったし」

「まあね。両親なくしたばかりじゃ、何かと思うこともあるでしょうよ。感じ易い年頃だからねえ」

「感じ易い子が、あそこにもいるな。ちょっと行って来ます」

ウリエルは、まだ耕す手を止めそうにない悠里の方に足を向けた。

「子爵さまは苦労性だね。あんたと同じで」

「僕と?」

「おや。自覚がないかい?」

「……妹を守るのは、僕の役目だから」

「だからさ。一生妹の面倒を見ることなんて出来やしないだろう。どこかで突き放すこともしなくちゃ、本当にあの子の為にはならないと思うけどねえ」

「……でも、まだ、早いですよ。ちゃんと、あいつが一人で生きて行けるようになるまでは」

「まあね。それが人情ってもんだろうさ。だったら、ここじゃない、他の所に働き口を探してやったらどうだい?」

「……あいつはまだ、14なんです。働き口なんて、早々見つからないでしょう」

「そうやって、あんたが、あの子の道を閉ざしてる。そう、考えたことはないかい?」

「え?」

「何でもやらせてみればいいんだよ。若いんだからね。まだまだ何でも出来るさ。勉強だって、仕事だって」

「……ちょっと、探して来ます」

アルバートは立ち上がると、サラが行ったと思われる方に歩いて行った。

「優し過ぎるねえ。最近の男の子は」

そう言って、ジョーは肩をすくめた。



「ユーリ」

声を掛けた途端、ピタリと動きが止まった。

「昼にしよう。弁当、持って来たよ」

「もう少し。あそこまでしてから」

「皆、待ってるよ」

「いいから、放っておいて!!」

言ってから、はっとして、ウリエルを見た。

「あ……」

溢れる感情を押し殺すように、伏せられる薄青色の瞳。

「ああ、そうだったな。ごめん……」

踵を返すウリエルを呼び止めることなど出来ず、悠里は立てた鍬の柄に、額を押し付けた。

「わたしは、ただ一生懸命やってるだけじゃない……」

今朝早く、ディントを発ったマリュエルの言葉を思い出す。

「あんまり一人で抱え込むなよ」

それなのに、手を伸ばしてくれるウリエルの事さえ拒むなんて。

「わたしって、ほんと、だめだなあ」

ちょっとでも変わりたいなら。

今、動くべきだ。

悠里は柄から額を離すと、耕したばかりの畑を横切り、ジョーの前に座ろうとしているウリエルの手を取った。

「ユ、ユーリ!?」

何も言わず、ずんずん歩いて行く悠里に、ウリエルは引きずられるように付いて行った。

そんな二人を見送ったジョーは、「若いっていいわねえ」と大きなパンにかぶりついた。


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