異世界で家庭菜園やってみた
2.禁呪発動
コツン……。大理石を敷き詰めた広間に靴音が響く。
豪華な椅子に腰掛けた、国王が振り返った。
「お前か。何度来ても、答えは同じだ」
冷ややかに言って、国王は視線を執務机の上に戻した。
コツン。
足を止め、国王に恭しく頭を下げたのは、アシュラムだった。
「何度断られても、参ります」
「……」
父子の間に、剣呑な空気が漂った。
「禁書を、お前に見せることは出来ぬ。あれは、王冠を戴いた者しか見ることが叶わぬと言っておるのが分からぬか?」
「……それでも、見せて頂かなくてはならないのです」
ぐいっと国王の体が引っ張られた。
「いい加減、私も痺れが切れました」
国王に顔を寄せ、アシュラムが囁いた。
「お前……!不敬を働くつもりか?」
「そのようなつもりは全く……。ただ」
「ただ?」
「これ以上申し上げて、分かって頂けぬようであれば、少々力を使わねばなりますまい」
「アシュラム!」
「もとより、敬愛する父上を傷付けるつもりはありませぬ。事は穏便に済ませたいだけ。父上が一言「許す」と仰って下されば……」
「やめろ、アシュラム」
「父上の子として、最初で最後の願い、お聞き届けください」
「……」
父子の視線が交錯する。
自分の子とは思えない美貌を持ち、己が手にすることのなかった力を持って産まれた息子。
そんな息子を、無意識のうちに遠ざけていたのは確かだ。
だが。
「これは、父としてではない。王としての返答だ。アシュラム。禁書を、お前には見せられぬ」
「……左様で、ございますか」
ふと、アシュラムの右手が光っているのを見た。
「何を、するつもりだ?」
アシュラムが微笑んだ。
それは、氷のような冷たさを持った、凄絶なまでに美しい微笑みだった。
昏倒した国王の脇を通り、広間の奥まで行くと、アシュラムは壁に手をかざした。
するとガクンと壁が動き、そこに隠し扉が現れた。
ゆっくりとした動作で扉を開くと、アシュラムは一度倒れている国王の方を見たが、その瞳には何の感情も映してはいなかった。
すっと扉の向こうに姿を消すと、掌から光の球を出し、辺りを照らした。
その部屋は、国宝が納められた部屋。
鍵を開けることが出来るのは、国王だけと定められている。
だが、アシュラムはその禁忌を犯し、さらに、代々国王のみに口伝される禁書を手にしようとしているのだ。
さまざまな宝物の中で、一際厳重に封をされている箱を見つけた。
躊躇うことなく、それに手を伸ばす。
アシュラムがそれに触れる前に、ピンと音を立てて鍵が外れた。
蓋を開けると、金字の施された、美しい装丁の書物が納められていた。
「これが、禁書……」
満足そうに言うと、アシュラムはそれを手にした。
その途端、禁書がぼんやりとした光を放った。
「私が手にして喜んでいるのか」
では、共に行こう。
禁書を脇に抱え、アシュラムは隠し部屋を出た。
未だ倒れたままの国王に目をやることもなく、広間を横切って行った。。
その後目覚めた国王にアシュラムとの記憶はなく、禁書が宝物庫より失われたことも知られることはなかった。
豪華な椅子に腰掛けた、国王が振り返った。
「お前か。何度来ても、答えは同じだ」
冷ややかに言って、国王は視線を執務机の上に戻した。
コツン。
足を止め、国王に恭しく頭を下げたのは、アシュラムだった。
「何度断られても、参ります」
「……」
父子の間に、剣呑な空気が漂った。
「禁書を、お前に見せることは出来ぬ。あれは、王冠を戴いた者しか見ることが叶わぬと言っておるのが分からぬか?」
「……それでも、見せて頂かなくてはならないのです」
ぐいっと国王の体が引っ張られた。
「いい加減、私も痺れが切れました」
国王に顔を寄せ、アシュラムが囁いた。
「お前……!不敬を働くつもりか?」
「そのようなつもりは全く……。ただ」
「ただ?」
「これ以上申し上げて、分かって頂けぬようであれば、少々力を使わねばなりますまい」
「アシュラム!」
「もとより、敬愛する父上を傷付けるつもりはありませぬ。事は穏便に済ませたいだけ。父上が一言「許す」と仰って下されば……」
「やめろ、アシュラム」
「父上の子として、最初で最後の願い、お聞き届けください」
「……」
父子の視線が交錯する。
自分の子とは思えない美貌を持ち、己が手にすることのなかった力を持って産まれた息子。
そんな息子を、無意識のうちに遠ざけていたのは確かだ。
だが。
「これは、父としてではない。王としての返答だ。アシュラム。禁書を、お前には見せられぬ」
「……左様で、ございますか」
ふと、アシュラムの右手が光っているのを見た。
「何を、するつもりだ?」
アシュラムが微笑んだ。
それは、氷のような冷たさを持った、凄絶なまでに美しい微笑みだった。
昏倒した国王の脇を通り、広間の奥まで行くと、アシュラムは壁に手をかざした。
するとガクンと壁が動き、そこに隠し扉が現れた。
ゆっくりとした動作で扉を開くと、アシュラムは一度倒れている国王の方を見たが、その瞳には何の感情も映してはいなかった。
すっと扉の向こうに姿を消すと、掌から光の球を出し、辺りを照らした。
その部屋は、国宝が納められた部屋。
鍵を開けることが出来るのは、国王だけと定められている。
だが、アシュラムはその禁忌を犯し、さらに、代々国王のみに口伝される禁書を手にしようとしているのだ。
さまざまな宝物の中で、一際厳重に封をされている箱を見つけた。
躊躇うことなく、それに手を伸ばす。
アシュラムがそれに触れる前に、ピンと音を立てて鍵が外れた。
蓋を開けると、金字の施された、美しい装丁の書物が納められていた。
「これが、禁書……」
満足そうに言うと、アシュラムはそれを手にした。
その途端、禁書がぼんやりとした光を放った。
「私が手にして喜んでいるのか」
では、共に行こう。
禁書を脇に抱え、アシュラムは隠し部屋を出た。
未だ倒れたままの国王に目をやることもなく、広間を横切って行った。。
その後目覚めた国王にアシュラムとの記憶はなく、禁書が宝物庫より失われたことも知られることはなかった。