異世界で家庭菜園やってみた
帰りの馬車の中で終始無言だった悠里は、邸に帰ってからすぐに自室に引きこもり、昼食の時間になっても姿を見せなかった。

「よほど、堪えたのねえ」

コウメさまが心配そうに眉をひそめたのに対し、サムはカラカラと笑いながら、「いやいや。若いうちは、たくさん挫折をしておいた方がいい」と、さも楽しそうに言った。

「まあ。それは、そうですけど……。自分の失敗なら前向きに捉えられても、人の悪意ある行為は、ねえ。特に悠里は感じ易い所あるから。アルも、もう一度出て行ってしまうし、ウリエルも戻って来ないし。若い人って、大変ね」

すでにご隠居の身であるだけに、この二人の会話は人生を達観していて、サラには付いていけない。

結局街に行くと言いながら気分が乗らず、半日を邸でダラダラと過ごした彼女は、どんよりと落ち込んで帰って来た悠里の様子に驚き、兄を問い詰めると、菜園が思った以上の荒らされようで、茫然自失の状態なのだと教えられた。

「僕はウリエルさんの手伝いに行って来るから、サラはユーリを頼むよ」

「ええ?何で、あたしが?」

「こういう時は同性が側にいてあげる方がいいんだ。いつも、お世話になってるんだ。こういう時力になってあげないで、どうする?じゃあ、頼んだよ」

そうして、呼び止める間もなく、出て行ったアルバート。

そんな兄を恨めしく思いながら、サラは最後の一口を頬張った。






扉がノックされたような気がして、悠里は長椅子に突っ伏していた体を起こして、扉の向こうの気配を窺った。

「アル?」

声を掛けたが、返事がない。

気のせいだったかと、もう一度横たわろうとした時、「ユーリ?」と女の子の声が聞こえた。

「え?サラ!?」

「うん……。コウメさまに、あんたの昼食、持って行けって言われて」

「あ、良かったのに」

のそのそと起き上がり、扉を開けると、トレイを抱えたサラが立っていた。

「ありがとう。でも、食欲がないんだ」

「とりあえず、これ、中に入れさせてくれる?あたしが、持って行かなかったみたいに思われるじゃん」

「あ、あ、そっか。うん。じゃあ、とりあえず、どうぞ」

サラは危なっかしい足取りで部屋を進み、やや雑にテーブルにトレイを置いた。

「ありがとう。わざわざ」

「ほんとだよ!あんたがへこんでるからって、何で、あたしが重たいの我慢して持ってこなくちゃ行けないのさ」

「うん。ほんとに、ごめん」

「だから、うざいって言うんだよ」

「……」

「な、なんだよ」

「わたしって、そんなにうざいかな……」

言った途端、涙が溢れそうになって、ギュッと瞼を閉じた。

「だって、何かというと、うじうじしてさ。もっと、あっさりやれないの!?」

「あっさり……」

と言われても、具体的に、どのような状態をあっさりと言うのか。

「ぱっぱと気持ちを切り替えるっていうの?そういうことだよ」

確かに、気持ちの切り替えは下手だと思う。

そんなことを、年下のサラに教えてもらうなんて。

悠里は恥ずかしくなって俯いた。
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