異世界で家庭菜園やってみた
「とにかくさ、それ食べなよ。兄さんがいつも言ってるよ。人間食べなきゃ終わりだって。空腹だと、思考もどんどん悪い方に転がるからって。あ、あたしは、別に、あんたのこと好きじゃないからね。あんたがどうなろうと、あたしの知ったことじゃないけど。すぐ側で、暗〜い顔していられるのが嫌なんだ。うざいんだって」

「うん。ほんと、うざいね」

胸に何かがストンと収まったような気がした。

(わたしって、ほんと、うざいな……)

「それじゃ、置いてくから、食べなよ!」

サラはそう言い捨てると、もの凄い速さで部屋を出て行った。

(照れてるんだ)

その事が分かって、悠里は他に誰もいない部屋で、くすっと笑った。

そう、見方を変えれば、いろいろな事が前向きに捉えられるようになるんじゃないか。

サラの暴言も、照れ隠しだったり、ちょっとした強がりだと思えば、可愛いものだ。

ひょっとすると、今まで誰かの言葉を深読みし過ぎて、勝手に傷付いて、一人で落ち込んでいたということが、たくさんあったのかも知れない。

そして、人付き合いが苦手だと、自らにレッテルを貼って、己をがんじがらめにして来た。

そういう事もあるんじゃないか。

全てが思い込みとは思わないけれど。

自分の捉え方一つで、世界はこんなにも変わるのだと。

この瞬間、悠里は気付いた。

悠里の体に巻きついた、いや、悠里が自分を守るために、19年かけて巻きつけて来た鎖が、ゆっくりとだが解(ほど)かれて行く。

それは、この時から始まったのだろう。

見えなかったことが、見えて来る。

やれなかったことが、出来るようになる。

言えなかったことを、言えるようになる。

それはまた、悠里に足りなかった自信を与え、ふわふわと浮きっぱなしだった彼女の足を、この世界の土に、しっかりと着けるきっかけになったのだった。






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