異世界で家庭菜園やってみた
「わたしが、元の世界に戻る方法はあるんですか?」

「……それは……」

返事はなくても、言い澱むアシュラムの表情を見れば分かった。

「ないんですか?」

「それは必ず見つけます!それまでは、姫がここで快適に過ごせるように尽くしますので。どうか。どうか、姫!」

「わあ。アシュラムさん。そんなに焦らなくていいから!わたし、ここでの生活、楽しみなんです。ちょっと元の世界での暮らしに嫌気が差してたし。失恋しちゃったばかりなのよね~」

はははと笑って見せる悠里を、アシュラムは痛ましそうに見た。

「失恋、されたのですか?」

「いやいや。もう、全然望みなんてなかったから、別にどうだっていいんですけどね~。嫌だな、アシュラムさん。そんな悲しそうな顔、しないで下さいよ~」

「あ、ああ。すいません……。でも、姫。泣いていらっしゃいます」

「え?」

言われて、気付いた。

悠里は止め処なく涙を流していたのだ。

須江田くんの突然の訪問の後いろいろあって心の中に蓄積していた悲しみが、堰を切って溢れ出してしまった。

そう自覚してしまうとだめだった。

悠里はとうとうテーブルの上に泣き伏してしまった。

アシュラムは慌てて立ち上がると、そろそろと伸ばした手で悠里の頭を撫で始めた。

ゆっくりと、労わるように。

「辛かったですね……」

その慰めにまた涙が溢れて、悠里はもうどうにも止まらなくなってしまった。

それから、さんざん泣いて、やがて悠里は静かになった。

ふと気付けば寝息を立てている。

アシュラムは破顔した。

「泣き疲れて寝てしまうなんて、子供みたいだな」

そう呟くと、アシュラムは悠里を起こさないように抱き上げようと苦労したが、なんとか彼女を『お姫様抱っこ』することが出来た。

「軽いな……」

女の子と言うのは、こんなに軽くて華奢なものなんだろうか。

物心付いた時には神殿に隔離されていたアシュラムにとって、女性とは未知のものだった。

扱い方が分からない。

それでも、この子を守らなければ、という思いだけは確かなものだ。

この王国に光を灯してくれるに違いない少女。

大切に、大切に、私が守ろう……。




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