異世界で家庭菜園やってみた
翌朝、悠里はまだ夜も明けきらぬうちに目を覚ました。

まだ暗い部屋の中で動き回ることも出来ず、悠里はベッドの上で二度寝することも出来ずにじっと横になっていた。

こうして自分の部屋ではないところで目覚めたということは、やっぱり夢ではなく、本当に異世界に来てしまったのだ。

悠里は改めてそれを実感し、深いため息を吐いた。

昨晩アシュラムと話した時は、現実逃避できるじゃんと舞い上がったが、しかし実際にここで暮らすとなると、問題は山積みのような気がしてくる。

ここには、コンビニもない。

お気に入りの基礎化粧品もない。

幸い視力は良かったからアイケアについては困ることはないけれど、月に一度の女の子の日は必ずやって来る。

(ここの人たちはどうしてるんだろう。まさか!だだ漏れってことはないよね?)

悠里はぷるぷると首を振った。考えるだに恐ろしい。

(きっと、ちゃんとケアする物がある筈よ。でも、誰に聞いたらいいんだろう……)

アシュラムに聞くことは出来ないし、侍女頭は何となく近寄りがたい。

こんなデリケートな話は出来そうになかった。

(まあ、そのうち何とかなるかな……)

そうやって、この世界で如何にして生き延びて行くかをつらづらと考えているうちに、すっかり外は明るくなっていた。

のそのそと起き出すと、ドアがノックされた。

「は、はい!」

「おはようございます」

入って来たのは、侍女頭だった。

「お目覚めでございましたか。では着替えを済まされたら、朝食をこちらにお持ち致します」

侍女頭に手渡されたドレスを着ると、トレーを持った侍女が入って来た。

「あの、アシュラムさんは一緒に食べないんですか?」

「自室で召し上がるとのことですので、姫さまはこちらで」

「はあ。そうなんですか……」

がっかりだった。

アシュラムの美貌を拝めば、何となく沈んでいるこの気持ちも上向きそうだったのに。

ますます落ち込んで行くのを止められないままテーブルに着くと、悠里はさらに肩を落とした。

朝食のメニューが、昨夜のものとまったく同じだったからだ。

あの固いスジ肉が浮かんでいるスープ。

このスジ肉。昨夜は結局残してしまった。噛んでも噛んでも噛み切れず諦めてしまったのだ。

アシュラムの皿を見れば、彼は綺麗に平らげていたから、彼は見た目よりもずっと顎の力が強いと思われる。

長年あの食事をしていれば、まあそうなるだろう。

(わたしも、玄米とかもっと食べとけば良かった……)

今朝もやはりスジ肉を残してしまい、侍女頭に露骨に嫌な顔をされてしまった。

「あの……ごめんなさい……」

消え入りそうな声で言うと、侍女頭は仕方ないと言うように溜め息をつきながら、「王都に行けば、もう少し良いものを召し上がれるでしょう。ここは神殿ですからね」と表情とは裏腹に優しく声を掛けてくれた。

(なかなか難しそうな人だな)

悠里は思い、やっぱり彼女にはめったなことは相談できそうにないと諦めた。


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