異世界で家庭菜園やってみた
「コウメさまって、もしかして……」
ふと浮かんだある考えに、悠里は急にドキドキし始めた。
「ええ。そうです。コウメさまもこの世界に召喚された方ですよ」
さらに早まる動悸をどうすることも出来ず、悠里はアシュラムに掴みかからんばかりだった。
「コ、コ、コ、コウメさまって、いつこの世界に?」
「七十年前。その時秘術を行ったのは、私の大叔父です」
「な、七十?」
そんなに昔!?
七十年前って、何時代?
歴史学科ではあったけれど、専攻は古代。
近代史には全くと言っていいほど興味のない悠里には、未知の時代だった。
(いや。そんなこと、はっきり言ったら、教授に怒られそうだけど……)
「姫。大丈夫ですか?」
黙り込んでしまった悠里を、アシュラムが気遣わしげに見ている。
コウメさまのことはもう少し黙っておこうと思っていたのに、思わずぽろっと零してしまった。
彼には珍しい失敗だった。
やはり多大な力が必要な召喚の秘術を行って、少し疲れているのかも知れない。
アシュラムは小さく息をついて、悠里を真っ直ぐに見た。
「全ては王都に行ってからです、姫。コウメさまにもお会い出来るように致しますから。まずは、今日これからのことをお話しておかなければなりません」
出会って初めて、アシュラムの顔から微笑みが消えた。
その体から発せられる緊張感に、悠里は思わずこくりと喉を鳴らした。
「王都に行ったら、大変なんですか?」
「国王陛下に謁見しますからね」
「それは……さっき、侍女頭さんから聞きました」
「ええ。そうですね。……姫は、謁見がどのようなものか、ご存知ですか?」
「え?えっと……」
王や王族に会うことを謁見というのではなかったか。
「その通りですが、事はそう単純ではありません。特に現陛下は一筋縄ではいかない方です。姫に一言も話さないでいただくのが最も良い方法ですが、そう言う訳にもいかない場面もあるでしょうし……」
「つまり……失言は命取りだと?」
アシュラムは何も答えなかった。
だが、その薄青色の瞳がそうだと答えている。
悠里は急に回れ右して帰りたくなった。
「わ、わたし、何も話しませんから。アシュラムさん、よろしくお願いしますね!」
「姫を脅すつもりはなかったのですが、でも、その方がいいかもしれません」
この優しいアシュラムが、ここまで沈黙を要求するということは、きっと国王陛下は恐ろしい人なんだ。
悠里は我知らず、アシュラムに身を寄せていた。
華奢な体が小刻みに震えている。
ふわりと何かが掛けられた。
それは、アシュラムが羽織っていた外套だった。
「私が傍にいますから。ですから、怖がらないで下さい」
悠里は少し考えて、小さく頷いた。
頼みはアシュラムだけなのだと。ますます思った。
「姫のおられた国のことも、教えてくださいね。姫がどのように過ごされていたのかも……」
悠里の背中を擦ってやりながら、アシュラムが独り言のように呟いた。
馬車の揺れと相まって、だんだん気持ちよくなってきた悠里は、そのままアシュラムの肩に頭を乗せて眠ってしまった。
窓の外には、まだ荒涼とした景色が続いていた……。
ふと浮かんだある考えに、悠里は急にドキドキし始めた。
「ええ。そうです。コウメさまもこの世界に召喚された方ですよ」
さらに早まる動悸をどうすることも出来ず、悠里はアシュラムに掴みかからんばかりだった。
「コ、コ、コ、コウメさまって、いつこの世界に?」
「七十年前。その時秘術を行ったのは、私の大叔父です」
「な、七十?」
そんなに昔!?
七十年前って、何時代?
歴史学科ではあったけれど、専攻は古代。
近代史には全くと言っていいほど興味のない悠里には、未知の時代だった。
(いや。そんなこと、はっきり言ったら、教授に怒られそうだけど……)
「姫。大丈夫ですか?」
黙り込んでしまった悠里を、アシュラムが気遣わしげに見ている。
コウメさまのことはもう少し黙っておこうと思っていたのに、思わずぽろっと零してしまった。
彼には珍しい失敗だった。
やはり多大な力が必要な召喚の秘術を行って、少し疲れているのかも知れない。
アシュラムは小さく息をついて、悠里を真っ直ぐに見た。
「全ては王都に行ってからです、姫。コウメさまにもお会い出来るように致しますから。まずは、今日これからのことをお話しておかなければなりません」
出会って初めて、アシュラムの顔から微笑みが消えた。
その体から発せられる緊張感に、悠里は思わずこくりと喉を鳴らした。
「王都に行ったら、大変なんですか?」
「国王陛下に謁見しますからね」
「それは……さっき、侍女頭さんから聞きました」
「ええ。そうですね。……姫は、謁見がどのようなものか、ご存知ですか?」
「え?えっと……」
王や王族に会うことを謁見というのではなかったか。
「その通りですが、事はそう単純ではありません。特に現陛下は一筋縄ではいかない方です。姫に一言も話さないでいただくのが最も良い方法ですが、そう言う訳にもいかない場面もあるでしょうし……」
「つまり……失言は命取りだと?」
アシュラムは何も答えなかった。
だが、その薄青色の瞳がそうだと答えている。
悠里は急に回れ右して帰りたくなった。
「わ、わたし、何も話しませんから。アシュラムさん、よろしくお願いしますね!」
「姫を脅すつもりはなかったのですが、でも、その方がいいかもしれません」
この優しいアシュラムが、ここまで沈黙を要求するということは、きっと国王陛下は恐ろしい人なんだ。
悠里は我知らず、アシュラムに身を寄せていた。
華奢な体が小刻みに震えている。
ふわりと何かが掛けられた。
それは、アシュラムが羽織っていた外套だった。
「私が傍にいますから。ですから、怖がらないで下さい」
悠里は少し考えて、小さく頷いた。
頼みはアシュラムだけなのだと。ますます思った。
「姫のおられた国のことも、教えてくださいね。姫がどのように過ごされていたのかも……」
悠里の背中を擦ってやりながら、アシュラムが独り言のように呟いた。
馬車の揺れと相まって、だんだん気持ちよくなってきた悠里は、そのままアシュラムの肩に頭を乗せて眠ってしまった。
窓の外には、まだ荒涼とした景色が続いていた……。