異世界で家庭菜園やってみた
馬車の心地良い揺れに身を任せて眠りながら、悠里は夢を見ていた。

浅い眠りだからか、それはつい最近の出来事がそのまま夢に出てきているようだった。

両親と兄の四人でお花見に行った時のこと。

満開の桜の下でお弁当を食べた。

大学入学を間近に控えていて、その時は失恋も瑣末なことに思えている頃で、悠里はの目はこれからの未来へと向いていた。

やはり自分の味方は家族なのだと。家族しかいないのだと。

そう実感しながら、他の三人がビールで乾杯する横で、炭酸飲料をちびちび飲んでいた。

兄は入社2年目。交際中の彼女とも、そろそろ結婚を考えていて最近とみに幸せそうだった。

夢の中でも、悠里は兄の笑顔に癒され、(今が幸せなら、それでいいよね)などと考えている。と、そこにまだ見ぬ兄の彼女がやって来た。

(あれ?こんなことあったっけ……)

悠里は夢を見ながら首を傾げた。

そうすると、兄の態度が一変し、悠里などそっちのけで彼女と桜並木の方へと去ろうとする。

それに両親も続こうとするので、悠里は慌てて追い縋った。

「待って!わたしも一緒に行く!!」

けれど兄と彼女は振り返ることなく行ってしまい、両親はさすがに振り向いたが、とても冷たい目をしていた。

『お前は、もう、うちの子じゃないよ』

「え……」

悠里は絶句したまま、もう二度と振り向くことなく去った両親を見送るしかなかった……。

突然場面が変わって、悠里は祖母の畑にいた。

土を耕す、まだ初老の祖母の横で、幼い悠里がミミズをつついて遊んでいる。

それを今の悠里が眺めている。

そんな構図の夢だった。

「おばあちゃん……」

悠里はいつも祖母の畑で遊び、祖母の手伝いをするのも好きだった。

幼い頃の悠里の思い出には、いつも祖母がいた。

「おばあちゃん……」

祖母を呼ぶ度に、ぶわっと涙が溢れ出た。

畑の一画を貰って、自分の好きな野菜を植えるようになった悠里に助言をくれた祖母。

受験勉強で忙しくて、なかなか畑が出来ない悠里の代わりに、水やりをしてくれた祖母。

大好きなくせに、反抗期に苛々に任せて酷いことを言ったこともあった。

けれど、そんな悠里を、祖母はいつも穏やかな微笑みで包んでくれた。

声を荒げることもせず、ただ無償の愛を与え続けてくれたのだ。

「おばあちゃん……」

誰もいなくなった悠里に、最後に手を差し伸べてくれるのは祖母だろう。

けれど、もう会うことも出来ないかもしれない。

(わたしは……どうして異世界なんかに来てしまったんだろう……)

会いたかった。今すぐに、おばあちゃんと畑がしたかった。

ミミズを摘まみ上げる幼い悠里に、声を上げて笑っていた祖母が、不意にこちらを見た。

『畑はどこでだって出来るさ。悠里』

「お、おばあちゃん!?」

『起きたことは、必ず意味のあることだ。頑張るんだよ……』

祖母と幼い悠里の姿が霞み始めた。

それと同時に、悠里自身も何かに引っ張られるように後ろへ飛び、だんだん意識が薄れて行った……。

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