異世界で家庭菜園やってみた
そうはにかみながら話す悠里の横顔を、アシュラムはじっと見つめていた。

きらきらと輝く少女の顔に、涙の筋が残っている。

悲しみと寂しさと喜びと。それらが綯(な)い交(ま)ぜになって、彼女のはにかんだ表情を彩っていた。

胸がきゅっと痛むのを感じて、アシュラムは眉を寄せた。

今まで感じたことのない痛みに戸惑った。

彼女への憐憫なのか。それとも……。

答えの出ないままにアシュラムがその痛みに耐えていると、悠里が「あっ」と声を上げた。

「どうしました?」

「わたしったら、つい、アシュラムさんにタメ口聞いちゃってましたよ」

すいませ~んと照れ隠しのようにおちゃらける悠里に、アシュラムはふるふるとかぶりを振った。

「構いません。ここでは、私が姫の味方です。どうぞ、親しくお話して下さいね」

「……」

「私が姫をこの世界に召喚したのです。大好きなおばあさんの元から無理矢理に。ですから、姫がもう泣きながら眠ることのないように、私が姫の支えになりたいと思っています。どうぞ、何か不安に思われたり、悲しく思ったりしたら、私に遠慮なく仰って下さいね」

「アシュラムさん……」

彼の薄青色の瞳に思いやりと優しさに溢れ、悠里の強張った心を溶かしていく。

おのれの心を不安と疑心で染めるのは簡単だ。

けれど人を心の底から信じることはなかなか難しい。

今では親友の詩織にさえ壁を作っている悠里だ。

自分の殻に閉じこもり、鍬(くわ)に助けを求める彼女には、他人に心を開けということは難しいことだ。

けれど、彼だけは、アシュラムだけは、何故か信じようと思える。

悠里は薄青色の瞳を見つめ返した。

その宝石のような瞳には、自分がはっきりと映っている。

くもりのない純粋な瞳には、確かに悠里だけが映っていた。


ここには、大好きなおばあちゃんはいない。
けれど、アシュラムがいる。
なら、彼を信じてみよう。
彼の、この瞳を信じてみよう。
逸らされることのない、この真っ直ぐな瞳を……。



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