異世界で家庭菜園やってみた
2.王都にやって来ました

1.謁見

王宮の建物は豪華だった。

神殿の簡素さが懐かしくなるくらいに、タペストリーや絵画、彫刻で飾り立てられている。

悠里はその煌びやかな光景を、あんぐりと口を開けたまま惚けたように眺めていた。

「姫。参りましょう」

アシュラムに促され歩き出したが、その足取りはすこぶる重かった。

(すっごい、場違いなんですけど。わたし)

国宝ばかりが集う博物館に迷い込んだような、畏れ多い気分になってくる。

趣味と実益を兼ねて歴史博物館にはよく行くけれど、今正に現役で使われているお宝を目の当たりにするのは初めてだったから、ぶつけたり手垢を付けたりしないようにと気を遣いながら歩くのに苦心した。

そうして、あらかじめ用意されていた部屋に辿り着いた悠里は、ぐったりと疲れ、目に付いた長椅子に倒れこむと、再び会いまみえることになった侍女頭にじっとりとした目で睨まれてしまった。

「姫さま。ここは王宮でございます。神殿とは違い、さまざまな方の目がございます。特に王侯貴族の方々は礼儀作法に厳しゅうございます。わたくしも出来るだけ教えて差し上げますが、それでも四六時中共にいるということもかないません。どうか、アシュラムさまのお荷物だけにはなりませんように」

悠里は長椅子に突っ伏したまま、朗々たる侍女頭の演説を聞いていた。

(こっちの気持ちなんて、本当にどうでもいいみたいね)

アシュラムに気は許せても、この人にだけは許せそうになかった。

「聞いてらっしゃいますか。姫さま?」

「わたしは……もん」

「よく聞き取れませんでしたわ。姫さま」

「わたしは、姫さまじゃないもんて言ったの」

「まあ」

悠里はうつ伏せのまま、侍女頭が盛大なため息をつくのを聞いていた。

「アシュラムさまのご意向ですわ。あなたさまを令嬢として扱えとの事でしたので」

悠里はむくりと起き上がった。

「それ。どういうこと?」

「アシュラムさまのご真意はわたくしには分かりません。そうしろと命ぜられたので、そのようにしているだけですから」

溜め息をつきたいのは悠里の方だ。

きっと侍女頭にとっては、悠里の存在など、どうでもいいのだ。

仕事だからやっている。

そういうことだろう。
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