異世界で家庭菜園やってみた
「もう、よろしいですか?そろそろお着替えを。謁見の時間に間に合いませんわ」
面倒くさい問答など打ち切りとばかりに、侍女頭が動き出した。
「さあ、姫さまのお仕度を」
他の次女に命じる声を、悠里はどこか遠くに聞いていた。
王宮に入るまで着ていたドレスも十分豪奢だったのに、着替えなくてはいけないのか。
侍女に促されて起き上がりながら、悠里は不満げに口を尖らせた。
「まあ、何というお顔をなされるんでしょう。そのようなお顔、謁見の間では絶対なさいませんように」
(ああ。いちいち口煩いおばさんだな……)
「口煩く申し上げるのは、姫さまに素敵な令嬢になって頂きたいからですわ。人の意見をきちんと聞けないのは愚か者でございますよ」
(な、なんだ。この人。考え読めるの?)
びくびくする悠里に、侍女頭は不遜な笑みを浮かべて、ずいっと身を寄せて来た。
小さく「ひっ」と声を上げる悠里になど全然構わない。
「姫さまのお考えなど、お見通しですわ。この世界で生きて行かれる以上。そして、王宮にお住まいになる以上は、礼儀を弁(わきま)
えなくてはなりません。それが、姫さまのお為なのです」
「……」
彼女に気圧された悠里の沈黙をどう捉えたのか、侍女頭は、新しいドレスに着替えた悠里の首にネックレスを着けながら囁くように言った。
「貴族は恐ろしゅうございます。特に女性にはお気を付け遊ばせ。姫さまがここで無事に過ごされたいなら、目立たないことですわ。
アシュラムさまとも極力ご一緒されない方がよろしいかと。あの方は、この国にとって特別な方。あの方に見染められたいと願っている令嬢は、星の数ほどおりますのよ」
「……わ、わたしは関係ないし」
「そうやって、現実から目を背けてしまわれるのですか?異世界よりの召喚が成功したことは、王侯貴族には知られています。ただでさえ、好奇の的になられるというのに、そんなあなたさまにアシュラムさまはべったりでは、面白く思わない方もいるでしょう」
「じ、侍女頭さんだって、わたしを怖がらせて面白がってるんでしょ?」
他の侍女に化粧を直されながら、悠里はドレッサーの鏡越しに侍女頭を見た。
「そう思われるなら、それで構いませんわ。せいぜい、ご令嬢の嫉妬の的におなり遊ばせ」
「……」
恐らくは、侍女頭は悠里を思って言ってくれているのだ。
けれど、上から目線な物言いと態度があいまって、悠里はなかなか素直になれなかった。
「まあ、よろしいですわ。そろそろアシュラムさまがお迎えに来られます。さあ、こちらへ」
「あの」
行きかけた侍女頭がぴたりと止まった。
そしてきっちりと悠理の方を向いて姿勢を正した。
正に侍女の鏡と言った姿だった。
「何でしょう?」
「あの。アシュラムさんて、偉い方なんですね」
「何を今さら」
侍女頭はあからさまに呆れていた。
「ご、ごめんなさい。こっちに来て軽くパニックだったから、アシュラムさんのことまで、あんまり考えられなくて」
「そうですか。では、謁見の前に教えて差し上げた方がよろしいですね」
面倒くさい問答など打ち切りとばかりに、侍女頭が動き出した。
「さあ、姫さまのお仕度を」
他の次女に命じる声を、悠里はどこか遠くに聞いていた。
王宮に入るまで着ていたドレスも十分豪奢だったのに、着替えなくてはいけないのか。
侍女に促されて起き上がりながら、悠里は不満げに口を尖らせた。
「まあ、何というお顔をなされるんでしょう。そのようなお顔、謁見の間では絶対なさいませんように」
(ああ。いちいち口煩いおばさんだな……)
「口煩く申し上げるのは、姫さまに素敵な令嬢になって頂きたいからですわ。人の意見をきちんと聞けないのは愚か者でございますよ」
(な、なんだ。この人。考え読めるの?)
びくびくする悠里に、侍女頭は不遜な笑みを浮かべて、ずいっと身を寄せて来た。
小さく「ひっ」と声を上げる悠里になど全然構わない。
「姫さまのお考えなど、お見通しですわ。この世界で生きて行かれる以上。そして、王宮にお住まいになる以上は、礼儀を弁(わきま)
えなくてはなりません。それが、姫さまのお為なのです」
「……」
彼女に気圧された悠里の沈黙をどう捉えたのか、侍女頭は、新しいドレスに着替えた悠里の首にネックレスを着けながら囁くように言った。
「貴族は恐ろしゅうございます。特に女性にはお気を付け遊ばせ。姫さまがここで無事に過ごされたいなら、目立たないことですわ。
アシュラムさまとも極力ご一緒されない方がよろしいかと。あの方は、この国にとって特別な方。あの方に見染められたいと願っている令嬢は、星の数ほどおりますのよ」
「……わ、わたしは関係ないし」
「そうやって、現実から目を背けてしまわれるのですか?異世界よりの召喚が成功したことは、王侯貴族には知られています。ただでさえ、好奇の的になられるというのに、そんなあなたさまにアシュラムさまはべったりでは、面白く思わない方もいるでしょう」
「じ、侍女頭さんだって、わたしを怖がらせて面白がってるんでしょ?」
他の侍女に化粧を直されながら、悠里はドレッサーの鏡越しに侍女頭を見た。
「そう思われるなら、それで構いませんわ。せいぜい、ご令嬢の嫉妬の的におなり遊ばせ」
「……」
恐らくは、侍女頭は悠里を思って言ってくれているのだ。
けれど、上から目線な物言いと態度があいまって、悠里はなかなか素直になれなかった。
「まあ、よろしいですわ。そろそろアシュラムさまがお迎えに来られます。さあ、こちらへ」
「あの」
行きかけた侍女頭がぴたりと止まった。
そしてきっちりと悠理の方を向いて姿勢を正した。
正に侍女の鏡と言った姿だった。
「何でしょう?」
「あの。アシュラムさんて、偉い方なんですね」
「何を今さら」
侍女頭はあからさまに呆れていた。
「ご、ごめんなさい。こっちに来て軽くパニックだったから、アシュラムさんのことまで、あんまり考えられなくて」
「そうですか。では、謁見の前に教えて差し上げた方がよろしいですね」