異世界で家庭菜園やってみた
「異世界からよく来られた。ユーリよ」
「は、はい」

「昨夜、だったか。さぞ驚かれたであろうな」
「は、はい」

「ふむ。アシュラムに、もし異世界から人が来た場合には、しっかりもてなすようにと常日頃から申し付けていたが、一晩とは申せ、不自由はなかったかな?」
「は、はいい」

同じ答えしか返せない自分を不甲斐なく思うが仕方ない。

手にじんわり汗が滲むのをドレスでそっと拭いながら、悠里は次にどんなことを言われるのだろうと身構えていた。

「ふむ。ユーリはこのような場は初めてか」
「は、はい」

「ならば、手短に済ませ、後はゆっくり茶でも飲もう」

国王はふっと笑って、アシュラムを見た。

アシュラムもそれに答えるように微笑んでいる。

「御意」

「うむ。では、ユーリよ。何故我が国が異世界から人を呼ぶか聞いておるかの?」

「……え、えっと……聞いたような気もしますし、まだのような気も……」

「ならば、説明しよう。我が国の王族には魔法が使える者が生まれるのだが、それは聞いておるか?」

「はい。それは聞きました」

「うむ。それは、一見良いことばかりのように思えるが、実際はそうでもない。もっとも強い魔力を持った者は国王になることが多かったが、それは、その者の力で結構いろんなことが事足りたからだ」

「……」

「やがて我が国は畏怖される存在となり、苦労することなく他国から様々な物を無償で貰い受けるようになった。代わりに、我が国の魔法を使う王族が他国へと赴き、その国の問題を解決する。まあ言わば、魔力を使った交易だな。
そうなってくると、我が国では何も育たなくなってしまったのだ。産業という物がこのディントにはまるでないのだよ。
その上、残念なことに、私は魔力を持たぬ。魔法を使って他国と渡り合うことが出来ぬ。過去には私のような者が国王となり、他国との関係が微妙なものになったことが何度かあったらしい。
……だがな。そのような場合にも、神は我が国を見捨てることはなく、国王の代わりに、力ある者をこの国にもたらして下さるようになった。それが、異世界から人を召喚するほどの力を持った者。私の代ではアシュラムであったのだが、彼のような者が産まれるようになったのだ」

そこで一旦言葉を切った国王は、アシュラムを見ていた。

そんな国王に、アシュラムは恭しくこうべを垂れた。

「うむ。だが果たして、それはまこと恩恵であったのか。この国に産業は生まれず、結局のところ、我が国民は他国からの物資に頼るほかない。そこで、有り難くも、異世界より召喚されし者たちが、彼らの技を我が国へと伝えてくれたのだ。それは、我が国の揺るぎない財産となり、今に至っている」

「……それは、どんなものなんですか?」

おずおずと質問したユーリに、国王は柔和な笑みで答えた。

「もっとも得難いものであったのが、ムギであろう。200年前。もたらされたと文献にある。それから、織物。これは、70年前。今もご存命のコウメさまより頂いた技だ」

「コウメさま!!」

「うん?コウメさまを存じておるか?」

「あ、いえ。アシュラムさんからちらっと聞いただけですけど……。今もこの国に、この世界にいらっしゃるんですか?」

「そうだ。コウメさまは、この国の王族に連なるものと結婚され、一児をもうけておられる」

「えええ!?」

悠里は国王の前であるということを忘れて思い切り叫んでしまった。

コウメさまはここで結婚し、子供まで?

それは、悠里にとって、とんでもなく衝撃的な事実だった。


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