異世界で家庭菜園やってみた
「愚かなことです。こうして、国が危険に晒されて初めて、己の弱さに気付くのですから……」

「危険?」

悠里の問い掛けに、アシュラムははっとした顔をした。

「姫には、順を追ってお話しなければなりませんのに、自分の愚痴を先に申し上げてしまいましたね」

申し訳ないと頭を下げるアシュラムに、悠里はかぶりを振った。

「ううん。アシュラムさん、ずっとそう言うことを思いながらも、魔法を使っていたんですね。魔法って、いい事ばかりじゃないんですね」

「使い方にもよるのでしょう。我々の使い方が間違っていたのです。……姫も、その犠牲者だとお思いになりますか?」

「え?」

「私は幼い時に臣籍に降り、神殿に入りました。それからずっと、お前は『いつか異世界から人を召喚するために生きているのだ』と言われ続けてきました。国の歴史を学び、異世界から来た方々が、この国に多大な貢献をして下さったことを知って、自分の役目がとても誇らしいものに思えました。ですが、それと同時に、自分の力が自分ではどうしようも出来ないような、恐ろしいものに思えてきたのです。人を召喚するという事は、その人の、元の世界での人生をなくしてしまう、ということです。それを自分の手で行うということが怖かった。……けれど、私は逆らえなかった。国王にも、国民にも……。逆らえぬまま、秘術を行ってしまったのです」

本当に愚かなのは自分なのだと言う、アシュラムの悲痛な叫びが聞こえるようだった。

だから、彼は最初から、悠里にとても親身になってくれていたのだろうか。

彼の自責の念が、そのような行動をさせていたのだろうか。

悠里は彼に何と言葉を掛けていいのか分からなかった。

「この世界に来てわたしは嬉しかったから、そんなに自分を責めないで」とは、お世辞にも言えないからだ。

でも、これだけは言える。

「ずっと、一人で苦しんでたんだね」

それは、悠里も同じだからだ。

自分の思いを上手く人に伝えられず、いつも自己完結してばかりだった。

そうして、流されて、自己嫌悪に陥るのだ。

「わたし、どこかへ行ってしまいたいって、思っていたの。もしかしたら、そんな思いが、アシュラムさんの魔法に反応しちゃったのかもしれないね……」

二人の視線が交錯する。

互いの思いをもっと汲み取ろうとするかのように。

そして二人は互いの中に、それぞれが抱える深い孤独を見出すのだった。




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