異世界で家庭菜園やってみた
「ありがとう。ユーリさんは」
「あ、悠里って呼んで下さい」

「あら、そう?じゃあ、ユーリは今おいくつ?」

「今十八です」

「あら、そう。少し幼く見えるわね。わたくしがここに来た時は、まだ十二だったわ」

「じゅ、十二?」

「ええ。本当にね。子供でしたよ」

「……」

十二歳といえば、まだ小6?

そんな小さい時にコウメさまは召喚されたのか。

「あら。でもね。かえって、そのくらい幼い方が物事を深く考えないで済むというか、やはり順応性が高いのでしょうね。わたくしは案外すんなりとこの世界に溶け込んだのよ。ふふ。嫌いな人と結婚しなくて良かったわって」

「結婚?」

「ええ。わたくしの家はね。華族の端くれでしたから。親の決めた許嫁というものがいたのですよ」

「うっわ。大正ロマンだ……」

「え?」

「いいえ。何でもないです」

(そうか。コウメさまは華族のお姫さまだったんだ。どうりで、お上品な筈だ)

一人納得する悠里を、コウメさまは不思議そうに見たが、すぐに気を取り直したようにお茶を啜って話の続きを始めた。

「その許嫁のことが、わたくしは本当に嫌いでしたの。その方はわたくしよりも家柄の良い華族でいらっしゃいましたけど、年齢がね、わたくしより二十も上だったんです。それに、その方にはね、愛人がたくさんいたのですよ……」

「二十……愛人……」

どこかで聞いたような話だが、実際昔はどこにでも転がっていた話なのだろう。

「本当に嫌でしたよ。十二の裳儀を終えて直ぐに、輿入れする予定になっていたの。だから、裳儀の夜に邸を抜け出してね。街をふらふらしていたら急に辺りが明るくなって、気付いたら、ここに来ていたのよ」

昔語りをするコウメさまは、特に何かの感慨があるという感じでもなく、ただ楽しそうだった。

「あの。裳儀って、何ですか?」

「え?あら、あなたはしていないの?女の子が成人しましたよっていう儀式」

「成人式なら、二十歳だから、あと二年後ですね」

「あらあら。七十年も経てば、いろいろ変わるのねえ」

それはコウメさまの何気無い一言だった。

けれど、それで悠里は気付いてしまったのだ。

こちらの世界と元の世界の時間の流れは同じ。

ここで二日経てば、あちらでも二日。こちらで十年経てば、あちらでも十年。

同じだけの年月を重ねることになる。

(そっか……。悠長に構えていないで、さっさとやることやってしまわないと、わたしも時代の流れに取り残されちゃうんだ……)

愕然とする悠里に構わず、コウメさまは呑気にお茶のお代わりをカップに注いでいた。
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