異世界で家庭菜園やってみた
「それで……コウメさまは、こちらの人と結婚されたんですか?」

そう尋ねると、コウメさまの表情に初めて感慨深げな色が浮かんだ。

それは心の底から湧き上がる、深く穏やかな感情だった。

「そう……。出会った時、あの方は若くて、とってもお美しかった。ふふ、今のアシュラムに似ていらしたわね。わたくしの一目惚れでしたのよ。ほほほ」

「え!?そうなんですか?」

「ええ。本当に優しくて、愛情深い方だった。一人この世界に来たわたくしを色々気遣って下さって。あの方に振り向いて頂きたくて必死だったの。そうしてね。やっと想いが叶って結婚したのが、18の時。あら、あなたの年齢と同じね。ユーリ」

「そう、ですね。あの。旦那さまが、コウメさまを召喚なさったんですか?」

「いいえ。それは、アシュラムの祖父。前の国王よ」

「はあ。そうなんですか……」

コウメさまはこの世界で伴侶を見出し、そして王族の一員として生活してきた。

それは、運命?それとも、偶然が重なって起きたことなのだろうか。

悠里には分からなかった。

ただ一つだけ分かったのは、同じ被召喚者とは言っても、コウメさまと悠里の辿る道は違うだろうということだ。

悠里はアシュラムを美しいと思い、ドキドキはするけれど、一目惚れなんてしていない。

彼を優しい人だとは思うけれど、それは彼の育って来た境遇や、召喚者としての義務から優しくしてくれているという面もあるだろう。

だから悠里は、その優しさに浮かれて、彼に恋なんてしない。

彼を信頼しようと思いながらも、彼に本当の意味で心を開いているのか、コウメさまの話を聞いたことで、悠里はまた疑問を抱いてしまった。

「……ユーリは少し思い詰めるところがあるみたいね」

その声にはっとして顔を上げると、悠里は自分がカップを握り締め、瞬きもしないで考えの中に沈んでいたことに気付いた。

「あ……すいません」

「若いうちは、わたくしもそうだったかしら。もう忘れてしまったわ。でもね、いろいろ思考を巡らすことはとても大事だけれど、考え過ぎは良くないわ。時には、勘で動いてごらんなさいな」

「勘……でも、それで失敗しちゃったら、とんでもないことになりますよ」

「あらあら。失敗を恐れて何も出来なくなるなんて、つまらないわ。せっかくの若さを台無しにしちゃうわよ」

ほほほと笑うコウメさまは、まるで少女のようだった。

(わたしより、よっぽど明るくて、元気でいらっしゃる……)

年齢が逆なのではと思う程、コウメさまは前向きで闊達だった。
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