異世界で家庭菜園やってみた
「どうしても会って話をしたかったんだ。大学は明日まで休みだから、思い切って志田んちまで来てみたんだけど。良かったよ。元気そうで」

「……どうして?」

「ん?」

「どうして、わたしに会いたいって」

消え入りそうな声で問う悠里に、須江田くんは垣根越しに近付いた。

「ほら、志田って、詩織と仲良かっただろ?」

「詩……織……」

その名に、悠里の心臓が痛いほどに反応した。

そう。その名こそ、彼女の親友であり、須江田くんの彼女である女性のものだった。

彼らは、もう呼び捨てするほどに親しくなっているのか。

それなら、なおのこと、ここまでして須江田くんが悠里に会いに来た理由が分からない。

もういっそ、断って鍬を取って来ようか。

「けどさ、大学が別々になってから、なかなか志田に会えなくなったって詩織が悲しんでてさ。詩織、俺と付き合ってるから、きっと遠慮してるんだよって、俺、詩織に言ったんだけど。それでも、やっぱり仲のいい子と会えないのは寂しいって、詩織言うんだよ」

知らなかった。

彼女がそんな風に思っていたなんて。

確かに、遠慮していた部分はあったと思う。

遠恋で、なかなか会えない二人の時間に、割り込んではダメだと思っていた。

だから、春休み中も、大学に入学してからも、詩織に連絡することなく過ごしていたのだ。

けれど、それ以上に悠里の心を支配していたのは、二人が仲良くしている話を聞きたくはないということだった。

自信なんてない。

自分が須江田くんの想い人になれる筈はないと分かっている。

けど。

だからこそ、辛かった。

劣等感の塊のような自分を、家庭菜園という殻に閉じ込めて、悠里は自己防衛しているのだ。

その防御体制にあるところへ、ひょっこり現れてくれた、須江田くん。

何のつもりだと言いたくなる。

けれど、実際には言えなかった。

惚れた弱みではない。

この後に及んで、悠里はまだ、須江田くんに嫌われたくはないと思っている。

一番にはなれなくても。

詩織の友人の一人くらいに思われていても。

嫌われてしまうよりは、ずっといい。

だから、悠里は、彼の望む返事を返す。

「詩織にそう思ってもらえて嬉しいな。わたしも、詩織に本当は会いたいの。須江田くんとの予定がない日には、詩織と遊んでもいいのかな?」
と。

すると、彼は満面の笑みを浮かべて頷いた。

「良かった。志田にそう言ってもらえて。きっと詩織も喜ぶよ。週末はけっこう俺との予定が入ってるけど、君は詩織と大学近いもんな。平日に詩織が空いてたら、会ってやってよ。君はいつでも暇だろう?」
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