異世界で家庭菜園やってみた
悠里は胸を抉られたようだった。

この言われようはなんだ?

どうして、片思いの相手から、こんなこと言われなきゃいけないんだ?

そもそも、わざわざ人の家まで来て言おうと思ったことが、これなのか?

いくら、3年間片思い中の相手とは言え、あんまり無神経じゃないか。

悠里はジョーロを持つ手を小刻みに震わせながら、須江田くんを見つめ返した。

須江田くんは、これでやっと詩織の懸念も払拭されると、一人喜んでいる。

「じゃあ、詩織にも、志田がこんな風に思ってるって伝えておくよ。やっぱり直接会いに来て良かった。メールだと、どうしても返事待たないといけないし。要領を得ないよね。君も土いじりばっかりやってないで、詩織に遊んでもらいなよ」

そうして、須江田くんは来た時よりはずっと晴れやかな顔で帰って行った。

彼としては、目的以上の結果を得られたのだから当然だ。

けれど、その場に一人残された悠里は……。

まだ震えている手をどうすることも出来ず、くるっと踵を返すと、近くの用具入れによろよろと歩いて行った。

そして、やっと鍬を手にすることが出来た。

(ああ、この重さだわ)

ジョーロでは心もとなかった手応えがある。

そしてその鍬を持って、また畑に戻った悠里は、祖母から決してしてはいけないと言われていることをやってしまった。

それは鍬を頭上高く振り上げること。

振り上げたまま、彼女にしては珍しい大声を上げた。

「いつでも暇なわけないじゃん。わたしだって、やることいっぱいあるんだよ!」

叫ぶと同時に、鍬を振り下ろす。

ドンと鈍い音を立てて鍬が土に突き刺さった。

その途端、鍬の刺さった辺りが眩しく光った。

「えっ、何!?」

『ここほれわんわん』でもあるまいし、何光っちゃんてんの!?

(まさか、ばあちゃんの隠し財産?)とおののいた時、より強い光が地面から放たれたのだ。

その光は瞬時に悠里を包み込んだ。

そして……。

光が消えた時。

そこには悠里の姿も彼女が握っていた鍬もなくなっていた……。









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