異世界で家庭菜園やってみた
*****

悠里は目を覚ました。

何か固いものの上に寝ていて、ひんやりと冷たい空気に晒されているのが苦痛になったからだ。

「体、痛い……」

呻きながら、のろのろ起き上がる。

周りを見渡せば、灯りといえば蝋燭だけの、薄暗い部屋だった。

「え。ここ、どこ……?」

寝かされていたのは石の台のような物で、これでは体も痛くなる筈だ。

これがどんな状況合分からず、自分が寝ていた部分だけ温かい、石の台の表面をぼんやりとしながら撫でていると、微かな衣擦れの音がした。

はっとして顔を上げると、蝋燭の明かりに浮かぶ白い衣が目に入った。

身を固くして身構える悠里に、存外柔らかい声が掛けられた。

「お目覚めでしたか。姫」

(ひ……め……?)

悠里は耳を疑った。

そして、すぐに何かの聞き間違いだと思い直した。

そんな悠里の動揺に気付く筈もなく、白い衣の男性が悠里に近付いて来た。

不思議なことに悠里は、彼の優しい声と物腰の柔らかさから怖さは感じず、むしろ、今の状況がどういったものなのか、とても興味があった。

「あまりによく眠っておいででしたから、掛け物を取りに行っておりました。お寒くはありませんか。姫」

「あ、あの……」

言い掛けて、悠里は瞠目した。

揺らぐ蝋燭の明かりの下で見た彼の姿に衝撃を受けたのだ。

淡い光の中で、キラキラと肩よりも長く流れ落ちる白銀の髪。

眉目秀麗という言葉がこれ程似合う人もいないと思うくらいの美貌。

そして、何よりも目を奪われたのは、優しげに細められた宝石のような薄青色の瞳だった。

夢?

夢なの!?

須江田くんに言われたことがあまりにショックで気を失ってしまったのだろうか?

唖然とする悠里に、その美貌の人はくすりと笑った。

もう、その笑顔だけで、完全にノックアウトだ。

涎を垂らさんばかりに惚ける悠里に、その人はふわりと掛物を掛けてくれる。

「お風邪を召されては大変ですからね」

その人が動く度にいい香りがした。

香水?

いや。そんな人工的な香りではなく、もっと優しい、自然な香り。

その匂いの元は結局分からず、その人が悠里を見つめる。

「私は、アシュラム・デュ・ロッセンと申します。失礼ですが、姫のお名を聞いても?」

「あ、あの……」

「はい」

「姫っていうのは、やめてもらえませんか……」

恥ずかし過ぎます……。

アシュラム・デュ・ロッセンと名乗った美貌の人は、不思議そうに首を傾げた。
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