異世界で家庭菜園やってみた
ウリエルは悠里を真っ直ぐに見ていた。
悠里はその時初めて、その瞳の色がアシュラムと同じであることを知った。
今までもきっと気付いていたのに、さして気にしていなかったのだ。
漆黒の髪に紛れるように輝く、薄青色の瞳。
アシュラムの清廉で神秘的な美しさではなく、ウリエルのそれは温かな春の陽射しのような輝きを纏っていた。
見つめられるだけで、心がほっこり温かくなるような、優しい瞳。
悠里は、この瞳に見つめられていたいと思った。
この瞳に見守られていたい。そう思った。
アシュラムのことはもちろん気掛かりだったけれど、それでも今側にいたいと思うのはウリエルだった。
「ユーリ?どうした」
その声に、自分があまりにまじまじとウリエルを見つめていたことに気付いて、悠里は真っ赤になって視線を逸らした。
「ウリエルさん。わたしはいつでもアシュラムさんと話したいって思ってるよ。……うん。今日だって、アシュラムさんに会えて嬉しかったし。次にアシュラムさんとお話しする時は、今のウリエルさんの話を思い出して、アシュラムさんの言いたいこと、ちゃんと聞いてあげる。アシュラムさんの本当に言いたいことが分かれば、きっとアシュラムさんだけ帰っちゃうようなことにならないもんね。そして、アシュラムさんは孤独じゃないんだって教えてあげたいな」
「ユーリは……」
「え?」
「いや、何でもない。……どうする?アシュラムの所に行くか?」
「今?」
「もともとお前は、あいつの離宮で生活することになっていたのを、お祖母さまが面倒見るって連れて行ったから。だから、お前がアシュラムの元に行きたいって言えば、すぐにそう出来る」
「だって、それじゃ、鍬の手配が出来ないよ」
「……」
「ウリエルさんと一緒に畑もするんだもん。今はアシュラムさんのとこには行けないよ」
「……畑か。そうだったな」
ウリエルは思いの外ほっとした様子で、そう言った。
「忘れてた?」
「いや。覚えてるよ。そうだな。まずはクワを手に入れないとな」
「うん。そうだよ。アシュラムさんが、わたしを元の世界に、日本に戻す方法を探してくれてる間に、わたしは家庭菜園を頑張るんだ」
「日本に戻す方法?」
「うん。さっきアシュラムさんが、わたしはやっぱり元の世界に帰るべきだって。だから、その方法を探すって言ってたの」
「あいつが、そんなことを?」
ウリエルは腑に落ちないという表情だった。
「ウリエルさん?」
「いや……。お前をこの世界に召喚した責任を感じてるのかな……」
「分からないけど。わたしに元の世界に帰りたいかって聞いてきたから。うんって」
「そうか……」
一瞬ウリエルの瞳に影が過った。
方法が見つかれば、悠里が日本に帰る?
そのことは受け入れ難いことであったけれど、受け入れなくてはならない事だった。
悠里がこの世界で伴侶を見つける。
彼女自身が自然とそのような気持ちになればいい。
だが異性に無理強いされて、そのような形に持って行くのだけは避けなければならない。
(だから、俺は待つしかないんだ)とウリエルは思う。
アシュラムもまた、そのように思うからこそ、あえて悠里を元の世界に帰すことを考えたのだろうか。
己れではない誰かが、悠里の心を得るのを見たくないから?
それは一見身勝手な事のようでいて、孤独な半生を送ってきた彼には仕方のない思考の流れのようにも思えた。
「よし、なら、クワを早いとこ手に入れよう。帰って作戦会議だ」
ウリエルは憂いを振り払うように殊更明るい声を出して、背中を預けていた木の幹から体を起こした。
「はい!!」
温度差はあるにせよ、悠里とウリエルは互いに共にあることを望んでいる。
しかし二人ともに、それに気付いてはいなかった。
悠里はその時初めて、その瞳の色がアシュラムと同じであることを知った。
今までもきっと気付いていたのに、さして気にしていなかったのだ。
漆黒の髪に紛れるように輝く、薄青色の瞳。
アシュラムの清廉で神秘的な美しさではなく、ウリエルのそれは温かな春の陽射しのような輝きを纏っていた。
見つめられるだけで、心がほっこり温かくなるような、優しい瞳。
悠里は、この瞳に見つめられていたいと思った。
この瞳に見守られていたい。そう思った。
アシュラムのことはもちろん気掛かりだったけれど、それでも今側にいたいと思うのはウリエルだった。
「ユーリ?どうした」
その声に、自分があまりにまじまじとウリエルを見つめていたことに気付いて、悠里は真っ赤になって視線を逸らした。
「ウリエルさん。わたしはいつでもアシュラムさんと話したいって思ってるよ。……うん。今日だって、アシュラムさんに会えて嬉しかったし。次にアシュラムさんとお話しする時は、今のウリエルさんの話を思い出して、アシュラムさんの言いたいこと、ちゃんと聞いてあげる。アシュラムさんの本当に言いたいことが分かれば、きっとアシュラムさんだけ帰っちゃうようなことにならないもんね。そして、アシュラムさんは孤独じゃないんだって教えてあげたいな」
「ユーリは……」
「え?」
「いや、何でもない。……どうする?アシュラムの所に行くか?」
「今?」
「もともとお前は、あいつの離宮で生活することになっていたのを、お祖母さまが面倒見るって連れて行ったから。だから、お前がアシュラムの元に行きたいって言えば、すぐにそう出来る」
「だって、それじゃ、鍬の手配が出来ないよ」
「……」
「ウリエルさんと一緒に畑もするんだもん。今はアシュラムさんのとこには行けないよ」
「……畑か。そうだったな」
ウリエルは思いの外ほっとした様子で、そう言った。
「忘れてた?」
「いや。覚えてるよ。そうだな。まずはクワを手に入れないとな」
「うん。そうだよ。アシュラムさんが、わたしを元の世界に、日本に戻す方法を探してくれてる間に、わたしは家庭菜園を頑張るんだ」
「日本に戻す方法?」
「うん。さっきアシュラムさんが、わたしはやっぱり元の世界に帰るべきだって。だから、その方法を探すって言ってたの」
「あいつが、そんなことを?」
ウリエルは腑に落ちないという表情だった。
「ウリエルさん?」
「いや……。お前をこの世界に召喚した責任を感じてるのかな……」
「分からないけど。わたしに元の世界に帰りたいかって聞いてきたから。うんって」
「そうか……」
一瞬ウリエルの瞳に影が過った。
方法が見つかれば、悠里が日本に帰る?
そのことは受け入れ難いことであったけれど、受け入れなくてはならない事だった。
悠里がこの世界で伴侶を見つける。
彼女自身が自然とそのような気持ちになればいい。
だが異性に無理強いされて、そのような形に持って行くのだけは避けなければならない。
(だから、俺は待つしかないんだ)とウリエルは思う。
アシュラムもまた、そのように思うからこそ、あえて悠里を元の世界に帰すことを考えたのだろうか。
己れではない誰かが、悠里の心を得るのを見たくないから?
それは一見身勝手な事のようでいて、孤独な半生を送ってきた彼には仕方のない思考の流れのようにも思えた。
「よし、なら、クワを早いとこ手に入れよう。帰って作戦会議だ」
ウリエルは憂いを振り払うように殊更明るい声を出して、背中を預けていた木の幹から体を起こした。
「はい!!」
温度差はあるにせよ、悠里とウリエルは互いに共にあることを望んでいる。
しかし二人ともに、それに気付いてはいなかった。