異世界で家庭菜園やってみた
「はあ。いえ。とんでもないです」

まだ、ぼんやりしている頭だと、物事を深くは考えられないものだ。

まず一番にここが何処なのか聞くべきなのに、そこまで思い至らない。

「ああ、そうですね。ここに、いつまでもいらっしゃるのもどうかと思いますし。姫。どうぞ、こちらへ」

すっと出された、白く美しい手。

「ずっとお待ちしていたのです。あなたがおいでになるのを。ですから、私にとって、あなたは姫。どうぞお気になさらず」

「……はあ。そうですか」

何だかよく分からないが、彼にいくら言っても改めることはなさそうだ。

悠里はすこぶる美形に弱かった。

懇願するように、あの宝石のような瞳で見つめられたら、もうだめだ。

何でも、言うこと聞いちゃうよ。

「では、姫のお名を」

「えっと……悠里って言います」

「ユーリ。良い名ですね。どうぞ、私のことはアシュラムとお呼びください」

どうしたものかと、じっと見つめていると、アシュラムはまたくすりと笑った。

「どうぞ。お手をお取りください」

「え?そんな。わたし、自分で下ります!」

そう言って、慌てて下りようとしたが、その台が思ったよりも高さがあることに驚いた。

(あれ?てことは、アシュラムさん。すっごい、背高い?)

自分を見下ろすように話していた、アシュラム。

美形な上に、高身長?

これは、絶対夢だ。

悠里は確信した。

自分の理想がここまで具現化なんて。

ありえない!!

半ば挙動不審になっている悠里を、アシュラムが気にする様子はない。

穏やかな表情で、彼女の手を取り、台から下してくれた。

「あちらの部屋に着替えを用意しております。それと、食事も。姫が落ち着かれたら、お話をさせて頂いても?」

アシュラムは手を引き、優雅な物腰で悠里をエスコートする。

それに悠里はすっかりぼうっとなっていた。

(ああ、なんだか、すっごく勘違いしちゃいそう!)

いくら夢でも、これはあんまり妄想が暴走中ではないだろうか。

(わたしって、そんなに鬱憤貯まってるのかあなあ)

いくら大好きな須江田くんにフラれたと言っても情けなくなってくる。

「はあ」と溜め息が出るのをどうすることも出来ず、悠里はアシュラムに引き摺られるようにして歩いて行った。
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