異世界で家庭菜園やってみた
「ディントは、ほんとに魔法頼みなんですね」

「情けないことだがな」

ウリエルは少し自嘲した笑みを浮かべた。

「……帝国に負けない国にしないといけませんよね」

強い決意を込めた悠里の言葉に、ウリエルは目を見張った。

「ユーリ。何か変わったな」

「え?どこがですか?」

「つい最近まで、もっと自信なさそうな感じだったのに、今は、そうでもないみたいだ」

「それは、ウリエルさんのおかげですってば」

「俺の?」

「はい。つい後ろを向きそうになっても、ウリエルさんが前に引っ張ってくれるから」

「そうかな」

「はい。ウリエルさんが一緒にいてくれるから、わたし、頑張れるんです」

「そうか」

「はい。ウリエルさんが大丈夫だって言ってくれるから、わたしでも出来るのかなって思えるんですよ」

それはウリエルに対する全幅の信頼だった。

「そこまで信用されたら、俺はもう身動きが取れないな」

「どういうことですか?」

「やっぱり、お前にとって、俺は兄貴みたいなものなのかな?」

そう訊かれ、悠里は躊躇いながらも頷いた。

「……ウリエルさんが何となく嫌がるから言わないようにしてたけど、やっぱりそうだと思います。実の兄よりも優しくて、完璧な兄貴って感じですよね」

ふふとはにかむ悠里を、ウリエルは複雑な思いで見ながら、気付かれないように深い溜め息をついた。

切なさに支配されそうになるのを何とかこらえ、そして。

「俺は、ユーリを妹とは思えないよ」

そう言って、ウリエルは悠里を見つめた。

真っ直ぐで、揺らぐことのない瞳。

ウリエルが何かを心の中で決断した時の瞳だった。

その視線をまともに受けて、悠里は思わず俯いてしまった。

「で、ですよね。わたしみたいな出来の悪い妹、嫌ですよね」

また卑屈になってしまうのをどうすることも出来ず、悠里はウリエルを見ることが出来ない。

「そういうことではないんだ。俺は……」

言い掛けて、ウリエルは口をつぐんだ。

『お前を一人の女としてしか見れない』

そう言おうとして、言ってしまう直前に、時期尚早だと気付いたのだ。

旅はまだ始まったばかり。

ここで告白めいたことをやらかして、後の旅程を気まずいものにしたくはなかった。

(ユーリには時間が必要なんだ)

今は目の前のことだけで精一杯だろうから。

余計なことで煩わせたくはない。

ウリエルはだから、溢れ出しそうになった言葉を飲み込んだ。

自分の気持ちは決まっているのだから。

悠里の方に、恋にも目を向ける余裕が出来るまで待てばいい。

(待って待って、待ち兼ねた挙句に、ユーリが他の奴を選んだら、俺どうなるか分からないけどな)

相手の奴を一発殴るだけで済めばいいけど。

ウリエルが少々物騒なことを考えている間に、どうやら馬車は、チェサート国との国境にある関所に着いたようだった。
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