異世界で家庭菜園やってみた
チェサート国の衛兵が守る門の前で馬車が停車した。

石造りの塀から続くその門もまた、頑丈な石で出来ていた。

物々しい雰囲気の中で、馬車の扉がノックされる。

「失礼。手形の確認を」

そう言いながら、衛兵が扉を開けた。

「ああ。これを」

あらかじめ出しておいた手形を、悠里の分も合わせて、ウリエルが差し出した。

衛兵はさっと目を通すと、「ロンドベル大公家の方でありますか」と言ってウリエルを見た。

「ああ。所用でリュール王国まで行くところなのだが、この子が是非チェサート国も観光したいと言うので、少しこちらにも滞在する予定だ」

「それは光栄であります!」

びしっと敬礼して、衛兵はにこやかな笑顔を見せた。

「失礼ですが、そちらの方は?ロンドベル大公家の縁戚の方でしょうか?」

手形に悠里の続柄が記されていないのが気になったようだ。

ウリエルは小さく肩をすくめると、衛兵に顔を寄せ囁いた。

「そこは察して貰うと有り難い。長の別れが辛いと泣いて縋られては仕方あるまい?」

「あ、ああ……なるほど。子爵さまの……」

妙に納得した表情で、衛兵は身を引いた。

「恋人さまとのご旅行。どうぞお楽しみください」

もう一度敬礼する衛兵に、手を振って応えるウリエル。

高貴な生まれの、優雅な紳士らしい振る舞いだった。

馬車がゆっくりと動き出す。

無事関所を通過できたようだ。

だが、心穏やかでない者が一人。

「ウ、ウリエルさん」

固い声に顔を向けると、強張った表情の悠里がいた。

「どうした?」

「こ、恋人さまって、どういうことですか!?わ、わたし、ウリエルさんと恋人じゃないですよ!!」

「ああ。それか……」

聞こえただろうなとは思ったけれど、そんなに顔を強張らせることもないだろうに。

内心傷付いたが、ウリエルは穏やかな表情を崩さなかった。

「けど、お前の素性をそのまま明かす訳にはいかないだろう?俺の妹だと言ってもいいけど、そうなると戸籍の提出を求められた時に厄介だ。その点、貴族の恋人だと言えば、案外顔パスだからね」

「そ、そんなもんなんですか?」

「不満かい?」

「不満とかではないけど……。でも本当に恋人でもないのに、違和感ありまくりと言うか……」

ドレスのスカートを弄びながら、悠里はもごもごと口の中で喋っている。

「嫌なら、やめよう。でも俺は、嘘でもお前と恋人を演じられるなら嬉しいけどな」

「え!?」

驚いて顔を上げた悠里を、いつもの真っ直ぐな瞳で見つめ返すウリエル。

「ど、ど、どうしてですか?」

「面白いから」

「はあ?」

「妹よりも面白いだろ?恋人の振りをする方が」

「そうでしょうか?」

悠里は小首を傾げた。

(どうしよう……。いつもはあんなに分かりやすく説明してくれるウリエルさんが、訳分かんなくなっちゃってるよ!)
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