異世界で家庭菜園やってみた
日も暮れかけた頃、悠里とウリエルは軽装に身を包み、街に繰り出した。
ディントでも夜に出かけたことはなかったから、悠里の気持ちは弾んでいた。
裾の長いドレスではなく、動き易いゆったりとしたワンピースに外套を羽織り、足元はブーツだ。
冷えてはいけないと、頭には毛糸の帽子を被っている。
ウリエルもゆったりとした軽装に、トレンチコートのような形の外套を着ていた。
一見すると、元の世界のファッションとあまり変わらないようだが、ただ一つ違うのは、ウリエルが剣を腰に帯びていることだった。
貴族のたしなみとかでいつも帯刀しているが、ディントにいる時はもっと装飾の多い、芸術品のような剣だったのに、今腰にあるのは一つも装飾のない、より実用的な剣だった。
ついそこに目をやってしまって、小さく身震いした悠里に気付いたウリエルが、気遣わしげな視線を向けた。
「寒いか?」
「ううん。違うの。ただ、ウリエルさんも人と戦うことあるのかなって思って」
「ん?ああ、これか」
ウリエルは「なんだ。そんなことか」と剣を見た。
「いつも見てるのに?」
「だって、そんな如何にも剣ですっていうのは、初めてだもん」
「日本にもあるって、お祖母さまに聞いたけど?」
「それは昔の話。現代の日本では所持は禁止されてるの。だから、全く縁のないものだわ」
「怖い?」
「怖くはないけど……でも……いざとなったら、やっぱり怖いかな。ウリエルさんがもし怪我したりしたら嫌だもの」
「そうか」
「まあ、あんまり、使うようなことにはならないよね」
「さあ、それは……この街の治安によるだろうね」
そう言われ、悠里は行き交う人々に視線を向けた。
街を行く人の数は、日が落ちても減ることはないようだった。
すでに酒が入っているのか、大声で叫んでいる人もいる。
賑やかで、楽しそうな雰囲気に潜む狂気が、見え隠れしているように思えた。
「油断はしちゃだめってことですか?」
「ん、まあ、そうだな」
突然悠里の手が温かいものに包まれた。
ウリエルが彼女の手を握ったのだ。
「ウ、ウリエルさん!?」
「こうやったら、怖くない?」
しっかりと握られた手を見て、悠里の顔がぼっと赤くなる。
ウリエルの大きな手は、悠里の華奢なそれをしっかりと包み込んでいた。
「いや?」
「い、い、い、いやじゃないけど……」
「けど?」
「恥ずかしいかなあ」
なにせ、異性と手を繋いだ経験がほとんどない悠里だ。
突然の状況に、どうしていいか分からなかった。
「恥ずかしがらなくてもいいさ。はぐれない為にもいいだろ?宿の支配人に、いいレストランを教えて貰ったんだ。この先だ。行こう」
引きずられるようにして歩きながら、しかし悠里も悪い気はしていなかった。
ウリエルのような素敵な人と手を繋いで歩くなんて、異世界でしか起こらない奇跡だ。
(そうだ。これは現実では起こり得ない夢みたいなものなんだ)
とかく自分に自信のない女の子は、奇跡や夢に縋りがちだが、悠里とて例外ではなかった。
これが夢として処理されようとしているとウリエルが知ったら、さすがの彼も脱力するに違いないが、幸いにもウリエルは悠里の後ろ向きな思考には気付いていなかった。
ディントでも夜に出かけたことはなかったから、悠里の気持ちは弾んでいた。
裾の長いドレスではなく、動き易いゆったりとしたワンピースに外套を羽織り、足元はブーツだ。
冷えてはいけないと、頭には毛糸の帽子を被っている。
ウリエルもゆったりとした軽装に、トレンチコートのような形の外套を着ていた。
一見すると、元の世界のファッションとあまり変わらないようだが、ただ一つ違うのは、ウリエルが剣を腰に帯びていることだった。
貴族のたしなみとかでいつも帯刀しているが、ディントにいる時はもっと装飾の多い、芸術品のような剣だったのに、今腰にあるのは一つも装飾のない、より実用的な剣だった。
ついそこに目をやってしまって、小さく身震いした悠里に気付いたウリエルが、気遣わしげな視線を向けた。
「寒いか?」
「ううん。違うの。ただ、ウリエルさんも人と戦うことあるのかなって思って」
「ん?ああ、これか」
ウリエルは「なんだ。そんなことか」と剣を見た。
「いつも見てるのに?」
「だって、そんな如何にも剣ですっていうのは、初めてだもん」
「日本にもあるって、お祖母さまに聞いたけど?」
「それは昔の話。現代の日本では所持は禁止されてるの。だから、全く縁のないものだわ」
「怖い?」
「怖くはないけど……でも……いざとなったら、やっぱり怖いかな。ウリエルさんがもし怪我したりしたら嫌だもの」
「そうか」
「まあ、あんまり、使うようなことにはならないよね」
「さあ、それは……この街の治安によるだろうね」
そう言われ、悠里は行き交う人々に視線を向けた。
街を行く人の数は、日が落ちても減ることはないようだった。
すでに酒が入っているのか、大声で叫んでいる人もいる。
賑やかで、楽しそうな雰囲気に潜む狂気が、見え隠れしているように思えた。
「油断はしちゃだめってことですか?」
「ん、まあ、そうだな」
突然悠里の手が温かいものに包まれた。
ウリエルが彼女の手を握ったのだ。
「ウ、ウリエルさん!?」
「こうやったら、怖くない?」
しっかりと握られた手を見て、悠里の顔がぼっと赤くなる。
ウリエルの大きな手は、悠里の華奢なそれをしっかりと包み込んでいた。
「いや?」
「い、い、い、いやじゃないけど……」
「けど?」
「恥ずかしいかなあ」
なにせ、異性と手を繋いだ経験がほとんどない悠里だ。
突然の状況に、どうしていいか分からなかった。
「恥ずかしがらなくてもいいさ。はぐれない為にもいいだろ?宿の支配人に、いいレストランを教えて貰ったんだ。この先だ。行こう」
引きずられるようにして歩きながら、しかし悠里も悪い気はしていなかった。
ウリエルのような素敵な人と手を繋いで歩くなんて、異世界でしか起こらない奇跡だ。
(そうだ。これは現実では起こり得ない夢みたいなものなんだ)
とかく自分に自信のない女の子は、奇跡や夢に縋りがちだが、悠里とて例外ではなかった。
これが夢として処理されようとしているとウリエルが知ったら、さすがの彼も脱力するに違いないが、幸いにもウリエルは悠里の後ろ向きな思考には気付いていなかった。