異世界で家庭菜園やってみた
それにしても、明かりの乏しい建物だった。

石造りの壁に、等間隔に燭台が掛けられているだけで、蛍光灯のようなものはないようだ。

どこからか隙間風が吹き込んでいるのか、気温が低く、悠里はぶるっと身震いした。

「お寒いですか?」

「え?ええ、少し……」

「部屋の暖炉には火を入れておりますから、もう少しの我慢ですよ」

「はあ。ありがとうございます……」

廊下を歩く間の会話と言えばそれくらいで、あとは二人の靴音だけが廊下に響いていた。

「ここです」

アシュラムに案内された部屋は、先ほど眠っていた殺風景な部屋とは違い、質素ながらも綺麗に整えられた部屋だった。

家具は椅子や机など必要最低限の物しかなかった。

すべて木製だ。

「姫のお部屋は別にございますが、とりあえずはこちらで身支度を調えてくださいね」

そう言うと、アシュラムは机の上にあった呼び鈴を鳴らした。

しばらくして数人の女性が入って来た。

女性たちは皆一様に髪をひっつめ、同じワンピースを着ている。

「では、私は一度失礼致します。また後で参ります」

「え?アシュラムさん、ちょっと待って!」

追いかけようとすると、すっと前に人が立った。

「侍女頭のヨハンナと申します。姫さまのお世話をさせて頂きます。では、まずは湯浴みを」

呆気に取られる悠里に、ヨハンナと名乗った女性は淀みなく言葉を告げた。

その間に、アシュラムは部屋を出て行ってしまった。

(わあ、あっさり行っちゃったよ)とは思ったが、これから湯浴みをするという場所にいられないかと思い直した。

「さあ、姫さま。こちらへ」

別室に連れて行かれると、広い部屋にぽつんと湯船があった。

「こんなとこで?」

思わず本音が出てしまい、ヨハンナが気を悪くしたかと顔色を窺ったが、さすがに侍女頭を務めるだけあって、無表情のまま、他の侍女たちにてきぱき指示を出している。

「姫さまは衝立の向こうで服をお脱ぎください」

申し訳程度の衝立。

恥ずかしいこと、この上ない。

「どうなさいました?」

「……お風呂、今入らないといけませんか?」

「晩餐会には清い体で出て頂かねばなりません」

「晩餐会?」

「詳しいことは湯浴みの後に。さあ、お早く」

言葉遣いは至極丁寧だが、態度は割と威圧的な侍女頭は、悠里をぐいぐい衝立の方へと押して行く。

「わ。待って下さい。自分で行きますよ」

だが侍女頭は聞く耳を持たないのか、結局衝立の裏まで悠里を追いやると、悠里のジャージに手を掛けた。

悠里は休日はだいたいジャージで過ごしている。

その方が畑仕事もしやすいからだ。

そのジャージをひん剥こうとする侍女頭の手を、悠里は焦ってがしっと掴んだ。

「だから、自分でやれますって!」

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