異世界で家庭菜園やってみた
「ここだ」

辿り着いた店は、こじんまりとしてはいたが小洒落ていて、女子が好きそうな雰囲気の店だった。

レストランというよりは、カフェのような趣である。

「ここでいいか?」

「うん。ウリエルさんにお任せです」

「ん。なら入ろう」

カランとドアベルを鳴らして入ると、すぐに悠里と同い年くらいの女の子が応対してくれた。

「ご予約のお客さまでないと、少しお待ち頂くことになりますが」

席はほとんど埋まっていて、その大部分が予約客らしい。

どうやら相当の人気店のようだった。

「参ったな。予約しておけば良かったな」

「失敗した」と呟くウリエルに、悠里は「他のとこでもいいですよ」と言って、案内係の女の子に断ろうとした時だった。

「相席でよければ、私の席にどうぞ」

振り返れば、一見しただけで貴族の夫人とわかる上品な女性が立っていた。

「あ、あの、でも……」

「困った時はお互いさまですわ。今は祝賀祭が近くて人も多いから、きっとどこの店もいっぱいですよ。私たちは二人で四人席を使っていますもの。勿体無いですわよ」

「ランカジャーさま。本当に宜しいのですか?」

「ええ。見たところ、そちらも貴族でらっしゃるようですし、問題はございませんでしょう。あなた。すぐに席を用意してあげて」

「ウリエルさん……」

「せっかくのご厚意だ。相席させて頂こうか」

「主人にも紹介しますわ。どうぞ、こちらへ」

ランカジャーさまと呼ばれた女性に付いて行くと、少し奥まった所にある、他の客からは死角になる席に、もう一人、男性が座っていた。

ランカジャーさまのご主人にしては、随分若い。

年の差カップルだった。

「旦那さま。こちらの方達ですわ」

ランカジャーさまは、その男性に膝を折って会釈した。

「こちらはマイオール公爵さまです。私は公爵さまにお仕えする、ランカジャー男爵の妻の、マチルダと申します」

(あ、なんだ)と悠里は思った。

主人というから、てっきり夫婦かと思ったが、お仕えするご主人さまという意味での『主人』に紹介すると、ランカジャー男爵夫人は言ったのだ。

(年の差カップルだと思っちゃったよ……)

「閣下。相席をお許し下さりありがとうございます。私はディント王国のロンドベル子爵ウリエルと申します。こちらはユーリと。お見知り置きください」

「まあ。では、大公殿下のご嫡男でいらっしゃいましたか。存じ上げなかったとは言え、失礼を致しました」

優雅に頭を下げるランカジャー男爵夫人に、ウリエルは「とんでもない」とかぶりを振った。

「私の方こそ、まさか公爵さまのお席とも知らず、気安く相席をお願いしてしまいました。お許し下さい」

「まあ。それはよろしいのよ。公爵さまが、あなた方をここへと仰ったのですから」

この会話の間に席の用意が終わり、ウリエルと悠里はひとまず席に落ち着いた。
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