異世界で家庭菜園やってみた
ウリエルとランカジャー男爵夫人が話している間も、マイオール公爵は鷹揚に果実酒の入ったグラスを口に運んでいて、特に悠里たちを気にしている様子はなかった。

けれど相席を提案してくれたのは公爵だという。

「ディント王国の子爵さまがこちらにおいでなのは、やはり祝賀式典に出席されるためですの?」

お近付きの印にと乾杯を済ませた後、ランカジャー夫人がそう尋ねた。

「ああ、いえ。国からの使節は別の者が……。我々は私用でリュール王国に行くところでして。旅慣れない彼女の為に、山脈を迂回する予定なのです」

「まあ、そうでしたの」

「はい。ですが、偶然にも、祝賀の華やかな雰囲気に触れることが出来て、彼女も喜んでおりますよ」

「まあ。ほほほ。子爵さまはユーリさまにぞっこんでいらっしゃるのね」

悠里は思わず口に含んだ水を吹き出しそうになった。

(ぞっこんて、久しぶりに聞いたよ!)

ウリエルも心なし苦笑している。

「公爵さまは祝賀行事の関係でこちらへ?」

黙々と目の前の皿の上の料理を片付けていた公爵に水を向けてみたが、やはり答えたのはランカジャー夫人だった。

「これはここだけの秘密にして下さいましね。公爵さまは、今夜チェサートの行政府で開かれる舞踏会に出席するのがお嫌で抜け出してしまわれましたの」

「「え!?」」

悠里とウリエルの驚きの声が重なった直後、「男爵夫人」と初めて公爵が声を発した。

「初対面の者に言わなくていいだろう?」

「あら。初対面の方だからこそ言えることもございますわ。まして、お二人は長くチェサートに留まるご様子でもありませんし。他言などなされませんでしょ?」

「ええ。もちろんです」

「公爵さまは現在お宿で熱を出されていることになっていますのよ。ほほほ。若い方は本当に舞踏会というものがお嫌いですものね」

マイオール公爵は結局そのまま口を閉じてしまい、自分の食事に専念することにしたようだった。

ランカジャー夫人はいかにもおしゃべり好きの中年女性という感じで、この公爵さまが相手では、さぞかし喋り足りないだろうと思われた。

だからか、ウリエルを相手に喋り捲っている。

それに、ウリエルも嫌な顔一つせずに付き合っているから、さすがの外交官といったところだろうか。

悠里はその会話に入ることが出来ず、公爵と同じように黙々と料理を口に運んでいた。

肉をナイフで切りながら、そっと公爵を盗み見る。

甘いマスク。という表現がぴったりの美形だった。

ウリエルのような爽やかさはなくて、むしろ冷たい感じを受けるが、それでも人目を引き付ける魅力があった。

少し茶色味のかった金髪を短く切り揃え、瞳は碧。

金髪碧眼の美丈夫だ。

(はあ。目の保養だわ〜)

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