異世界で家庭菜園やってみた
ウリエルさんがわたしを……?

なんで?

いつから?


美味しい料理もそっちのけで固まってしまった悠里は、ウリエルを見つめることしか出来なかった。

いや。

視線は確かにウリエルに向いていたが、焦点は定まっていない。

つい今しがた自分に掛けられた言葉が、現実のものであったのか、疑ってしまうくらいに混乱していたのだ。

「ユーリ。大丈夫かい?」

悠里があまりに呆けているので、ウリエルは彼女の目の前でパタパタと手を振った。

それでも反応しない。

ウリエルは深く息をついて、テーブルに投げ出されたままの悠里の手を取った。

ぴくりと反応する、悠里。

手応えを感じて、ウリエルはテーブルに身を乗り出し、出来るだけ彼女に顔を近付けた。

「どうやったら、お前にも俺と同じ気持ちを持って貰えるのか……。そのことを思うと、胸が痛むばかりだけど。でも、いつかは、お前と共に歩めるようになるのだと信じている。ユーリ……」

囁くようにそう言うと、ウリエルはそっと悠里の手の甲に口付けた。

「ひゃ~~」

途端、悠里が変な悲鳴を上げた。

「ウ、ウ、ウ、ウリエルさん……」

「なんだい?」

ようやく焦点の合った悠里の瞳に笑い掛けた。

「ど、ど、どうして、そこまで……!」

「う~ん。ショック療法?ちょっと驚かせ過ぎたかなと思ってさ。謝るよ。ごめん」

ウリエルはすっと悠里の手を離し、乗り出していた体を戻すと、何事もなかったように、葡萄酒の入ったグラスを手にした。

葡萄酒を味わうようにして飲むウリエルには、先程までの切なそうな様子はなく、いつもの飄々とした彼に戻っていた。

「あ、あの。ウリエルさん?」

「なに?」

「あの……さっきのことは、夢でしょうか?」

「いいや。夢じゃないよ」

ウリエルはくすっと笑った。

「ですよね~」

「うん。でも、夢だと思ってもらってもいいかな。ユーリはまだ、この世界で生活することだけでも精一杯なのに、そんなお前に気持ちを押し付けるようなことを言ってしまった。俺の失態だよ。悪かった」

「そんな!謝らないで下さい」

「……じゃあ、この話はこれで終わりにしよう。ユーリも忘れて」

「……」

「ね?」

「忘れて、いいんですか?」

「ああ。いいよ」

「なかったことにして、いいんですか?」

「……ああ……いいんだ」

本当にいいんだろうか。

悠里には分からなかった。

けれど、なかったことにしてしまえば、きっとお互いに楽なんだ。

(ウリエルさんが、いいって言ってるんだもん。いいんだよ)

この先のことを考えても、彼と気まずくなることだけは避けたい。

”あの”失恋がトラウマになっている悠里には、まだ恋に尻込みしてしまう部分があるから。

ウリエルは兄のような、友人。

そんな関係の方が、今の悠里には楽だった。
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