異世界で家庭菜園やってみた
「やっと着いた〜!」

悠里は馬車から降り立つと、大きく伸びをした。

チェサート国の第二の都市を発って、5か目。

ほぼ彼の国を縦断する形で、ようやくリュール王国に辿り着いた。

特にリュール王国に入ってからは、観光を許されない強行軍だったため、殊の外堪えた。

いくら乗り心地のいい馬車だと言っても、さすがに体に響いて、節々が痛い。

特に、お尻から腰にかけて、じんわりと痺れているような感じだった。

そうウリエルに訴えると、「なら、今日は温泉に泊まろう」と応じてくれた。

「温泉?この世界にも温泉てあるんですか?」

「ああ、あるよ。特にリュール王国の山脈沿いには、良い温泉が湧くらしいから」

俄然乗り気になった悠里だったが、そこではたと考え込んだ。

「どうした?」

「だったら、また馬車、ですか?」

少々げんなりして言うと、ウリエルはくすりと笑って、「どうやら、この街にも浴場があるみたいだよ」とある方向を指差した。

「え?」

指差された方を見ると、そこには一枚の看板が家屋に立て掛けてあった。

「温泉大浴場」

「ここが!?」

「いや。ほら、あっちの方向に矢印が描かれている。行ってみる?」

「も、もちろんです!」

どうやら歩いて行くことの出来る距離らしいことが分かって、悠里はほっと胸を撫で下ろした。

これで山の方にまで馬車で行かなくて良くなったのだから。

お尻はまだ痺れているけど、歩くくらいなら大丈夫だ。

「行こう」

ウリエルは先に立って歩き出した。

その手は上着のポケットに突っ込まれたままだ。

あのチェサートでの夜以来、ウリエルは悠里とある一定の距離を取るようになっていた。

一緒に歩く時も必ず前を行くし、馬車で二人きりになっても、もう前の席から移動することはない。

極力悠里の隣にならないようにしているようだった。

(少し寂しい)

悠里はそう思ったが、それは自分の招いた結果なのだから仕方ない。

ウリエルの告白をなかったことにしたのは、悠里なのだ。

いくら鈍感な彼女でも、それがとても残酷なことであると分かっている。

けれど、結果、二人は以前のような当たり障りのない、気楽な関係を保てている。

なら、一瞬感じる寂しさなど、取るに足らないものだと悠里は思った。

ウリエルとはこの先も、このままの関係でいたい。

そのことは彼も了承済みだ。

悠里は単純に、そう思っていた。

「ああ、ここだな。へえ。宿も兼ねているみたいだ」

「あ、そうなんですか?でも、ウリエルさん、予約してる宿があるんですよね」

是非ここに泊まって、温泉を堪能したかったが、そこまでの我儘はさすがの悠里も言えなかった。

「うん……当日キャンセルは無理かな。予約した所には、温泉はないんだ。ごめん」

「う、ううん。ウリエルさんが予約してくれてる所、すごく楽しみですもん。ここは温泉に入るだけで十分です」

「そう?じゃあ、入ってみようか」

「は、はい!」

一歩入ってみると、そこは広いロビーだった。

そこに、老若男女、様々な人が大勢いた。

「うわ。すごい人〜」

思いがけない、たくさんの人に、悠里は思わず感嘆の声を上げていた。

「ああ、ごらん。ユーリ」

「え?」

ウリエルが目に止めていたのは、このリュール王国の地図のようだった。

「ここが、今俺たちがいる街。こっちが首都だ。明日には着けるよ」

「わ、わ、こんなに近いんですね」

「ああ。今日はゆっくり温泉に浸かって、明日は万全の体調で首都に入ろう」

「そうですね。では、さっそくお風呂に」

「ちょっと待て。まだ何の準備もしてないよ」

文字通り首根っこを掴まれて、悠里はロビーにあるカウンターまで引っ張って行かれた。

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