異世界で家庭菜園やってみた
侍女頭は「ふん」と鼻を鳴らした。

「では、半刻したら、あちらのお部屋にお戻りください」

そう言って、恭しくお辞儀した。

「わ、分かりました」

ああ。なんてリアルな夢なんだろう。

妄想炸裂とはこの事だ。

それに、夢の中だというのに、お湯をあったかく感じる。

とても気持ち良かった。

ふっと肩の力が抜け、悠里は自分が思いの外緊張していたのだと知る。

「夢なのに?」

そう一人ごちると、「でも、これって、本当に夢なのかな……」と考えないようにしていた疑問が、つい口をついて出てしまった。

「やだ、わたしったら。現実とかけ離れてるもん。夢に決まってる」

触覚のある夢があってもいいじゃないか。

あまり長湯は出来ないと、素早く体を磨いて、湯船を出、ローブを羽織った。

(また、あの人と話さなきゃいけないのかあ)

扉の外で待っているであろう侍女頭のことを思うと、気が重くなる。

が、ずっとここにいることも出来ない。

悠里は気合を入れるように、一度深呼吸をして、元の部屋に続く扉を開けた。

当然ながら、数人の侍女は、そのまま部屋で待っていた。

「ちょうど半刻です。思ったより、しっかりされているのですね」

何気にけなされたような気がするが、そこは無視して、侍女頭の前に立った。

「次は何を?」

何か支持される前に先手を打ってやろうと尋ねると、侍女頭の眉が微かに動いた。

「高貴な姫君は、ご自分からは何も仰らないものです。まあ、作法はおいおい勉強して頂くとして、今日も所はよろしゅうございます。こちらへ。姫さま」

侍女頭が他の侍女に目配せした。

すると彼女らがわらわらと寄ってきて、無理矢理ローブを脱がされた。

「ギャッ!!」

18年の人生で、これほどの羞恥があっただろうか。

下には何も着ておらず、まさにすっぽんぽん。

前を隠そうとする悠里を制し、ぐいっと頭から何かを被せられた。

「今宵の晩餐会は殿下の私的なものでございます。ドレスも簡略に、とのお心遣いを賜っておりますので、正装ではございません。よろしゅうございますか?」

よろしいも、よろしくないもなかった。

すでに決定事項なら、確認などいらないと言いたかった。

ぶすっとした悠里に構わず、今度はドレッサーの前に座らされる。

「綺麗なおぐしですね」

おぐし、というのは髪のことだ。

そんなお世辞はいらないと言おうとして、この侍女達は悠里の言うことなど、一切聞かないのだと思い口をつぐんだ。

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