キミさえいれば
その日の夕方。


自宅に帰って着替えていたら、母さんが部屋から起きて来て夕飯の準備を始めた。


私はその様子を、じっと眺めた。


母さんの後ろ姿は、とても40代とは思えないほどの美しさだ。


「ねぇ、母さん」


「ん~?」


何かの食材を刻みながら返事をする母さん。


「お父さんとお兄ちゃん、今どこにいるの?」


私の問いに、母さんが一瞬包丁を持つ手を止めた。


「またその話?

だから前から言ってるでしょ?

もうわからないのよ。

連絡もとってないし」


母さんはいつもそう答える。


わかっていたけれど……。


「どうして連絡を取れるようにしておいてくれなかったの?

お母さんは連絡取りたくなくても、私はお父さんやお兄ちゃんに会いたかったんだよ」


「凛?」
< 107 / 311 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop