キミさえいれば




ピッと絆創膏を剥がす。


もうすっかり傷は治っているみたいだ。


先輩が貼ってくれた絆創膏をゴミ箱に捨てると、なんだが急に寂しくなった。


あの日先輩は、この指に何度もキスをしてくれた。


傷をそっと労わるように……。


岸先輩に触れられた首も、耳も、胸も。


先輩が全て唇で洗い流してくれた。


あと少ししたら、生徒会も解散だ。


そしたら私と先輩は、もう会う機会なんてないだろう。


あと半年もすれば先輩は卒業するし、会わなくなれば、きっとそのうち忘れられる。


そうだよ。


忘れられるよ。


そして、先輩も忘れてしまうんだ。


私との思い出、全部。


それでいいんだ……。


そう思いながら、涙に濡れた頬を拭った時だった。


ドンドンドンと玄関の扉が乱暴に叩かれた。


何…?


誰なの? こんな時間に……。


私は部屋の電気を消して、忍び足で玄関へと向かった。


恐る恐る玄関のドアスコープから外を覗くと……│。


うそ……。


先輩……。


どうしてここに?


「凛、開けてくれ。話を聞いて欲しい」


ドアを叩きながら叫ぶ先輩。


「先輩、帰ってください。

もう話す事はないので」


「俺はあるんだ」


「ダメ。帰って。お願い」


「聞いたんだ俺、親父に。


凜。


お前、俺の妹なんだろう?」
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