キミさえいれば
今は古くて狭いアパートに住んでいる私だけど、12歳になるまでは庭付きの大きな家に住んでいた。


優しい父と美しい母、とても仲が良い兄と私。


休みの日には必ず家族で出かける、絵に書いたような幸せな家庭だった。


だけど12歳の夏、突然世界が180度変わってしまった。


両親が離婚したのだ。


父は跡取りが欲しいと言って兄を連れて行き、母は娘を絶対手放したくないと言って私を引き取った。


離婚の原因は、母さんの男性トラブル。


母さんはその美し過ぎる容姿が災いしてか、男性からのアプローチが絶えなかった。


度重なる異性問題で父もついに堪忍袋の緒が切れて、家族はバラバラになってしまった。


父と別れた後、母さんは知り合いを尋ねてこの街へ引っ越し、現在に至っている。


中学三年生の時、どうしてもたもっちゃんに会いたくなって、貯めておいたお年玉をはたいて、昔住んでいた家を訪ねたことがあった。


だけど、そこにはもう別の家族が住んでいて。


その時以来、父と兄の消息は不明だ。


私が一生懸命バイトをしているのは、兄を探すため。


探偵を雇うのに、一体いくらかかるかなんてわからない。


だけどきっと、すごい額なんだろうって思っている。


大好きなたもっちゃんに会うことが私の全てであり、私の望み。


それ以外、何もいらないの……。
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