キミさえいれば



念入りに身体を洗う。


ハヤト君に触れられた場所全てを。


だけど洗っても洗っても、その感触が思い出されて。


どんなに拭っても拭い切れなかった。


お風呂から出ると、先輩が私の部屋で勉強しながら待ってくれていた。


私は先輩にお茶を運んだ。


「凛、大丈夫か?」


優しい顔の先輩に、胸がキュンとしてしまう。


思わず先輩にしがみついた。


すると先輩は、すぐにぎゅっと抱きしめてくれた。


「先輩……。もう帰る?」


「ん? うん……。

試験発表中だしな。

もうそろそろ……」


そうだよね。

 
先輩は私と違って成績がいいんだもの。


ちゃんと勉強するよね……。


「わかった。

送ってくれて、ありがとう」


私は先輩から身体を離した。


「凛?」


「ん?」


「……泣いてるの?」


泣いてなんかないよ。


そう言いたかったのに、私の頬は涙で濡れていた。


いけない。


心配をかけてしまうのに……。


「凛、ごめん。

そうだよな。

あんな目に遭ったのに、ひとりなんてイヤだよな。

眠るまでそばにいてやるから。

だから、安心して」


先輩の言葉に私の緊張の糸はすっかり切れてしまって、小さな子供のように泣くじゃくってしまうのだった。
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