キミさえいれば
母さんの問いかけに、ドクンドクンと心臓が鳴る。


「あー……、えっと……」


私がしどろもどろになっていると。


「黒崎と言います」


先輩がボソッと呟くように言った。


「黒崎君かぁ。

背が高くて素敵な人ね」


母さん、全然気づいてないみたい。


これなら、なんとかごまかせるかな……?


「じゃあ僕はこれで失礼します」


そう言うと先輩は頭を下げて、その場から急いで立ち去った。


「あら~。お茶くらい飲んで行っても良かったのにねぇ」


残念そうな母さん。


「か、母さん。私ね、熱が出ちゃったの」


「えっ、そうなの?

それは大変。

早く部屋に入りましょ」


次第に小さくなっていく先輩の後ろ姿を眺めつつ、私は母さんとアパートへ入った。


パジャマに着替えてベッドに横になると、私は早速先輩にメッセージを入れた。


すると、すぐに先輩から返信が届いた。


まさか母さんと鉢合わせしてしまうなんて……。


これからは気をつけないといけないと、私も先輩も感じていた。


だけどこの出来事が、とんでもないことに繋がっていくのだった。
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