キミさえいれば
先輩をバイクで跳ねてしまった男性の名は笹岡さんといい、偶然にも先輩が指定校推薦をもらったN大の三年生だった。


笹岡さんと処置室前の長椅子に座っていると、バタバタと慌しく走る足音が聞こえて来た。


どんどん近づくその足音は、私の目の前で緩やかに止まった。


「あの、もしかして保君のお父さんですか?」


笹岡さんの言葉にビックリして顔を上げると、その中年男性が「はい」と返事をした。


「僕、笹岡と言います。

この度は本当に申し訳ありませんでした」


立ち上がり、頭を深く下げる笹岡さん。


「あの、保の容態は……?」


「今、治療中です。

幸いケガは小さくて済んだんですが、意識が無くて……」


「そうですか……」


深いため息が聞こえた後、ピタリとその男性の動きが止まる。





「凛……?」
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