キミさえいれば
でもそうなると今度は、私と先輩が付き合っている事が母さんにバレてしまう。


あぁ……。


私と先輩は、もうどうする事も出来ないのかもしれない……。


絶望を感じていたその時、処置室の扉が静かに開いた。


ガラガラと廊下に運び出されるベッドの近くに、私とお父さんは慌てて駆け寄った。


「…………っ」


なんだか何も言葉にならなかった。


先輩は顔や手や体のあちこちに、傷の手当てを受けていた。


こんなにケガをしていたなんて、きっとすごく痛かったよね。


だけど幸い脳には異常は無いらしく、意識が戻れば退院出来ると聞いて、私もお父さんもホッと胸を撫で下ろした。


病室に移った先輩をしばらく見ていたけど、すぐに意識が戻る気配はなかった。


「凛、もう夜も遅いから今日は帰りなさい。

今夜は父さんがついているし、何かあればすぐに連絡してあげるから」


本当は離れたくないけど、私がいたところで何も出来ないし。


明日学校が終わったら、すぐに来よう。


「凜、自宅まで送るよ」


「うん……」


後ろ髪をひかれつつ、病院を後にした。


自転車だと少し時間がかかる距離も、車だとあっという間で。


久しぶりにお父さんの運転する車に乗れて、私はすごく嬉しかったけど。


お父さんは私が住んでいるアパートがあまりに古いから、ひどく胸を痛めていた。


「苦労させてごめんね」って言ったお父さんの目には、涙が少し滲んでいた。
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