キミさえいれば
次の日、私は学校が終わるとすぐにバスに乗って病院へと向かった。


病院に着くと、お父さんは仕事なのか病室にはいなくて、私はベッドの横の椅子にそっと腰掛けた。


「先輩……」


先輩は昨日と同じ状態のままで、特に変わった様子はないようだ。


眠る先輩の綺麗な横顔を見ながら、私は昨日車の中でお父さんが話していた事を思い出していた。


先輩の記憶は一生戻らないかもしれないけれど、もし記憶が戻るようなことがあったら、今度は失っていた期間の記憶が無くなるかもしれないと……。


もし先輩がたもっちゃんに戻ってしまったら、この一年間私と過ごした記憶はすっかり忘れてしまうのだろうか?


私との出会いから、これまでの出来事も全て消えて無くなってしまうんだろうか?


そんなの悲し過ぎる。


そんなことになったら、きっと私は耐えられないだろうと思う。


それならむしろ、このまま記憶を失っていて欲しい。


たもっちゃんには申し訳ないけれど、私は先輩が好き……。


もう引き返すことなんて、出来ないの……。


ごめんね……、たもっちゃん……。


その時だった。


「ん……」

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