キミさえいれば
「凛、母さんそろそろ出勤するけど。

大丈夫?」


そう言って、私の部屋の襖を開ける母さん。


その声に私は目を覚ました。


「うん、大丈夫」


「夕飯作ってあるから、気分が良くなったら食べてね」


「ありがとう」


「じゃあ、行って来るね」


「行ってらっしゃい」


笑顔で手を振ると、母さんはヒールを履いてアパートを出て行った。


しばらく横になっていたけど、私はベッドから起き上がり、着替えをした。


顔を洗い、髪を整え、玄関の扉を開ける。


外に出ると、昼間降っていた雨は止んでいて、少し冷たい風が吹いていた。


私は自転車に乗ると、まだ水溜りの残る道路を走った。


向かった先は、先輩と何度か行ったあの河原。


そこに自転車を停めると、川岸へと歩いた。


雨の後のせいか、川の水は濁り、水嵩が増していて、流れも速くなっていた。


私はその流れを、ただじっと眺めていた。
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