キミさえいれば
「黒崎くーん」


練習をしていたら、事務の人に呼ばれた。


「お父さんから電話が入ってるわよ」


「えっ、父さん?」


「なんか緊急みたい。

稽古中で携帯が繋がらないから、道場に電話をかけたそうよ」


そう言って、電話の子機を渡された。


なんだろう?


緊急の用事?


「もしもし、父さん?」


『保か?』


「うん、どうしたの?」


『お前、今すぐ松岡病院に来い』


「な、なに? 急にどうして?」


松岡病院って、俺がこの前入院してた救急病院だよな?


『保、落ち着いて聞いてくれ』


「な、に……?」


どうしよう。


なんだか、ひどく胸騒ぎがする。


一体、何だって言うんだよ。


『凛がな……』


ドクンと心臓が大きく波打つ。


「り、凛がどうかしたのかよ!」


ドクドクと鼓動が、有り得ないほど速くなっていく。


『凛が、危篤だ……』


「え……?」


なに……?


今、なんて言った?


『川に流されたんだ。

今夜が山だ。

だから早く来い。

保、聞いてるのか? おい!』


指の力が抜けて、ボトンと電話機が床に落ちた。


凛が危篤……?


そんなことって……!


俺は目の前が真っ暗になった。
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