キミさえいれば
母さんの思いがけない告白に、お父さんが愕然としている。


「栄子、キミはそんなふうに思っていたのか?」


お父さんの問いに、母さんは静かに頷いた。


「確かに僕は、大学の頃夕紀の事が好きだった。

社会人になっても、少し未練があったけれど。

でも、栄子に出会ってからは、栄子一筋だったよ。

本当に、キミしか見えてなかったのに……」


父さんの言葉に、母さんは悲しそうに目を細めた。


「ずっと、ずっと苦しかったわ。

私はどう逆立ちしたって、夕紀さんには敵わない。

洋二さんはいつだって、私の意見より夕紀さんの意見の方を尊重しているように見えた。

だって、彼女は本当に頭が良くて優秀だから……」


母さんの目に、涙が滲んでいく。


「私はいつも、彼女と自分を比べてた。

彼女は大卒で、私は短大卒。

彼女は結婚後も、大企業で企画などをやっているのに、私は何のキャリアもないまま専業主婦になってしまった。

苦しかった……。

何も持っていない自分が……」


「栄子……」
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