キミさえいれば
知らなかった。


母さんにこんなコンプレックスがあったなんて。


こんなに若々しくて、誰もがうらやむような綺麗な母さんなのに……。


「全て、僕のせいだ……。

キミにそんな苦しい思いをさせていたなんて、知らなかった。

確かに僕は無神経だったかもしれない。

何もわかってあげられなくて、本当にごめんね、栄子……」


お父さんは申し訳なさそうに言った。


「洋二さん、もういいのよ。

だけど、保には申し訳ないことをしてしまったわ。

あなたは何も悪くないのに、私の勝手な思いで、あなたを苦しめる結果になってしまったわ。

どうか、自分を責めないでね。

自分さえいなければ良かったとか、そんなふうに考えないで。

あなたを施設に入れていたら、きっと私も後悔していた。

私だって、あなたをちゃんと息子として愛していたのよ」


母さんの言葉に、先輩は静かに頷いた。


「うん。

わかってる。

俺をちゃんと育ててくれてたよね。

ありがとう、母さん……」


先輩がそう言うと、母さんは涙をぽろぽろと流した。
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