キミさえいれば
お世辞にも綺麗とは言えない、小さな、とても古びたアパートだった。


この綺麗な子がこんなところに住んでいるなんて、とても結びつかないくらいに。


「ここの、2階なんです……」


「そっか……」


胸がチクリと痛んだ。


きっと、俺には知られたくなかったんだ。


この家に住んでいる事を……。


そんな彼女にバイトを辞めろなんて、とても言えないと思った。


「黙っておくよ」


「え?」


「バイトの事は、見なかったことにするよ」


「本当ですか?」


すっかり曇っていた白石の表情が、急にパッと明るくなった。


「あ、ありがとうございます!」


ニッコリ笑うその無邪気な顔に、ドキッと心臓が跳ね上がる。


白石が笑う顔なんて初めて見た。


やばい。


今まで見た中で一番可愛い……。


「でも、さすがに22時上がりはやめた方が良いよ。

いくらなんでも遅すぎる」


「ごめんなさい。

10月中旬までは、それでシフトを組んでもらってるんで、それは難しいです」


「まじか……」


まいったな。


うーん……。


「じゃあこうしよう。

22時上がりの時は、俺が送る」

 
俺の言葉に、目を見開く白石。


「俺が、白石を自宅まで送るから」
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