キミさえいれば




なんだか良い匂いがする。


あったかい幸せな匂いだ。


布団から起き上がって台所へ行くと、母さんが朝食の準備をしていた。


「おはよう、凛」


「帰ってたんだ」


ジャージ姿の母に、なんだかホッとする。


母さんは早く仕事が終わった日は、こうして朝ご飯を作ってくれるんだ。


「お味噌汁ついだから、テーブルまで運んでくれる?」


「はーい」


私は母さんの作りたてのお味噌汁が大好き。


小さい頃を思い出すから……。


「最近、部活が忙しいの? 夕方、全然会えないわね」


ご飯を頬張りながら、母さんが問いかけた。


「あぁ実はね。

言ってなかったんだけど私、生徒会の役員になったの」


「まぁ、そうなの?」


「うん。でね、来月文化祭があるから、その準備で忙しいの。

だからしばらくは、毎日遅くなると思う」


本当は嘘だけど……。


「そうなのね。

じゃあなるべく早く帰って、朝は一緒にご飯を食べるようにするわね」


「うん。でも無理はしないでね」


最後のお客さんが帰らないと、母さんの仕事は終わらないもんね。


「大丈夫よ。母さんだって、凛と一緒にいたいから」


そう言って、ニッコリ笑う母さん。


仕事上がりで疲れていても、母さんはやっぱり綺麗だ。
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